第174話

朝7時17分(日本時間では、午前1時47分)それは、突然襲ってきた。


 スペイン南部を震源地とするマグニチュード5.2の大地震である。その時、汀怜奈はホテルのベッドで枕を抱いて寝ており、佑樹は工房で橋本ギターのブリッジを貼りあげて、徹夜明けの目をこすりながら朝食に「チュロス (churro) とホットチョコレート(chocolate)」でも食べに、近くのカフェへ行こうかとしていた時である。


 スペインで地震とは…なんて珍しいことだろう。後日の発表では、衛星データを使い、地震が引き起こした地殻のゆがみを調べたところ、過去50年の地下水くみ上げにより帯水層の地下水位が約250メートル低下し、地殻がゆがんだことに相関性があることが判明した。つまり、断層に人為的な圧力が加えられた結果の地震の発生である。


 東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0で、今回のスペイン地震とは比べ物にならない。しかし、5.2だからといって被害が小さいわけではない。

 スペインをはじめヨーロッパの建築物は石造りのものが多く耐震力がない。地震に関しては「ほぼ無防備」といっても過言ではなく、マグニチュード5.2の地震でも都市がマヒするほど驚異的な天災となる。実際ラグナダでは、世界遺産の崩壊はまぬがれたものの、街ではビルや民家が倒壊して少なくとも十人以上の死亡が確認されたという。


 ホテルのベッドで揺れに目が覚めた汀怜奈は、幸い近代的建築の中にいたので、机の上のモノが倒れたり、壁に掛けた絵画が落ちる程度で、それ以上の被害はなかった。揺れが収まって、テレビをつけると程なくしてメディアが一斉に大地震の被害を告げている。


  現地からのテレビ映像によると、町の広場に複数の家族らが集まり、れんがやがれきが道路を覆う中、建物の倒壊から身を守っている姿が映し出される。自治体の当局者がテレビの取材に対し「南部地域全体が深刻な被害を受けた。市民は自宅に戻ることを非常に恐れている」と語っていた。


 国営ラジオに答えたある女性は「ここに座っていたら、すべてのものが動き始めた。絵は壁から落ち、テレビは倒れ、揺れは長い間続いた。窓から外を見ると、たくさんの人が逃げ出し、救急車や警察もいた」と報告している。

 しかし、救急車や警察が動員されも路地が多いスペインの街並みである。がれきの下となった人やケガをした人の救助は困難を極めたはずだ。結果的には、今回の地震による被災者は約1万人とみられ、スペイン政府は軍兵士200人を被災地に派遣する大災害となったのである。

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