第152話
楽器として完成するのにどれほどの時間が必要なのだろうか。
材料として長期間乾燥させ、ひとつひとつのパーツは、その都度手加工でされ、ひとつ組み上げてはニカワを乾燥させ、またひとつ組み上げては乾燥させる。挙げ句の果てに、ニスのうす塗りと乾燥を気の遠くなるほど繰り返す。ある著名なギター工房では、発注から納品まで三年から五年待ちは当たり前とも聞く。
百万単位のギターを作るならいざ知らず、大量生産のシステムを持たない小さな手作り工房が、大衆的なギター作りを目指すなど、到底ビジネスになるわけがない。しかし、橋本師匠は、そのモノづくりポリシーを固持し、工房の業態を変えるつもりは全くないようであった。
『ええか、わしらは楽器づくりの職人だ。その楽器というもんはな、奏でる人がおってはじめて楽器になる。決して置いて眺めるもんではない。見た目の美しさより、常に弾き手のことを考えろ』
工房の職人達の不出来を叱る時の橋本師匠の口癖だ。
泰滋は、そんな橋本師匠の頑固さが好きであった。しかも、もともと工作好きの性分である彼は、職人達の手で作り上げられるギターを眺めながら、ギター工房での手伝いの日々を楽しく過ごしていた。
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