第151話
組立。職人の手によって準備されたパーツがいよいよ組み立てられる。
組立といっても、基本的にはニカワの糊付けである。ニカワを着けて万力等で力を加え圧着させる。ひとつのパーツが圧着されニカワが乾燥するのに一週間はかかる。すべてのパーツが組み上がるのにどれほどの日数が必要なのかは、容易に想像できるだろう。
組立での重要なポイントのひとつに、トップ板の裏側に『力木』を接着させる工程がある。『力木』はその材質・形状・配置により音質を左右する重要な部材である。橋本ギター工房では、橋本師匠が私財を投げ打ってスペインに修行に行き、苦労の末に得たスペインの伝統的な配置を採用していた。
塗装。組みあがってニカワの乾いたギターは次の段階へ進む。
表面を磨いて塗装面を均一にならし、艶も出すようにするのだ。そして、そこに塗装を施すことになる。塗装は完成品をきれいに見せることと木の表面を保護することが役目であると、木工の世界では言われているが、楽器には見栄えなどの他に『音』という一番大切なことがある。実は、この塗装はその音に大変影響を与えるのだそうだ。
塗装は薄すぎても厚すぎてもいけない。厚すぎると音質の良さや木の美しさを塗りこめてしまう。塗料は調合したニスを使い、刷毛やたんぽで丹念に仕上げる。その都度乾かしながら何回も繰り返す作業はとても長い時間がかかるのだが、この工程を丁寧に行うことで、ギターの振動への影響が小さい塗膜を形成し、見た目にも美しい仕上がりのギターが作り出される。
仕上げ。塗装の工程を終え、十分に乾燥させたギターはいよいよ仕上げの作業に入る。
音作りに大きな影響を与える駒の接着場所の塗装をノミで削る。ここをフラットに削って駒を隙間なく接着することで、弦の振動を最高の効率で表面板に伝えることができる。そして、最後の仕上げでナットを調整し、音色の良さと弾き易さを最大限にまで引き出す努力を尽くす。
もちろん、ナットとサドルは一本ずつのギターに合うように手作りされたものであり、後の調整まで考慮して最適の状態に仕上げる。そしてやっと出荷が待たれる楽器として完成されるのだ。
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