第142話

「上手でしたよ。ねっ、おじいさま」


 汀怜奈はおじいちゃんに向いて同意を求めた。


「まあ、上手かどうかはとにかく、じいちゃんが寝ちまう前に一曲弾き終えたのはえらいかもしれない…」


 答えたのは父親の方だった。


「おとうさま、そんな言い方…」


 ムキになって言い返す汀怜奈をなだめるように、おじいちゃんが小さく声を出した。


「そんなバカなどほっておきなさい。佑樹、ありがとう。心が温まるおまえらしい優しい音色だったよ」

「でしょう」


 汀怜奈が相槌ともに満面の笑みで佑樹に向かってうなずいた。

 佑樹は照れくさそうに頭をかいている。


「だが…」


 終わってはいなかったおじいちゃんの感想に、みんなが動きを止めて注目した。


「なんでそんなに悲しい音を出すんじゃ。佑樹、なにか悲しいことでもあるのか?」


 佑樹は、おじいちゃんの意外な問いに答えることができなかった。


「もしかして…あの世へ行くわしを哀れんで、悲しんでいるのかな。なら…まったくのお門違いだ」


 そう言いながらのおじいちゃんの薄笑いに、今度は佑樹をはじめ、そこにいる全員が言葉を失った。おじいちゃんは、そんなみんなを見回しながら、言葉をつなぐ。


「むしろ、わしがこの時をどれほど待ち望んでいたと思う」

「どういうことだよ」


 気色ばむ佑樹の父親をなだめるように、おじいさんは優しい笑顔を返す。


「まあ、聞きなさい」


 そして、ゆっくりと話し始めた。

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