第125話
「あの…ミチエさん」
結婚記念写真にカメラマンからポーズの注文を受けながら泰滋が言った。
「はい?」
ミチエが大きな綿帽子(文金高島田)が重いのか、上目遣いで泰滋に答える。
「どうしても、気になってることがあって…」
「なんでしょう?」
「あの…『ストップ札』の件ですけど…」
「ああ、これ」
ミチエは懐から紙片を取り出した。
「そんなもの、こんなところまで持ってきはったんですか?」
「ええ…まあ」
「もう、破ってもええんと違いますか?」
「ええ…でも…今となっては、この札がかえって泰滋さんと一緒にいられるお守りみたいな気がして…」
ミチエはまた大切そうに懐へ仕舞ってしまった。
「あっ、ちょっと、ミチエさん」
結婚後にそんな札を出されたらたまらない。慌てて紙片を取り上げようとする泰滋。
「ああ、新郎はん、動いたらあきませんがな」
カメラマンに叱られて、泰滋は仕方なくカメラに向き直った。
「あの…ミチエさん。」
結婚記念写真にカメラマンからポーズの注文を受けながら泰滋が言った。
「はい?」
ミチエが大きな綿帽子(文金高島田)が重いのか、上目遣いで泰滋に答える。
「どうしても、気になってることがあって…。」
「なんでしょう?」
「あの…『ストップ札』の件ですけど…。」
「ああ、これ。」
ミチエは懐から紙片を取り出した。
「そんなもの、こんなところまで持ってきはったんですか?」
「ええ…まあ。」
「もう、破ってもええんと違いますか?」
「ええ…でも…今となっては、この札がかえって泰滋さんと一緒にいられるお守りみたいな気がして…。」
ミチエはまた大切そうに懐へ仕舞ってしまった。
「あっ、ちょっと、ミチエさん。」
結婚後にそんな札を出されたらたまらない。慌てて紙片を取り上げようとする泰滋。
「ああ、新郎はん、動いたらあきませんがな。」
カメラマンに叱られて、泰滋は仕方なくカメラに向き直った。
こうしてドタバタのうちにふたりの結婚式が執り行われた。
ミチエは後に姉妹たちに語っていたのだが、結婚式のその夜に、お義父さんのために、いつもの豆腐屋に下駄履きで豆腐を買いに行ったそうだ。もちろん、豆腐屋のおばちゃんは結婚のお祝いにと、豆腐を一丁足すことを忘れなかった。
当然かもしれないが、親の金で結婚させてもらった学生の身分のふたりは、さらに親から新婚旅行を無心するわけにはいかない。また、結婚式を挙げたからと言って、いつも通りの暮らしのリズムを変えようとも思っていなかった。ただ、ひとつ結婚によって変わったことがある。二人の寝室を隔てていた襖が開け放たれたのだ。
しかし、その日の夜のことは、ふたりだけの大切な思い出なのだから、そっとしておくことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます