第126話

「しかし、佑樹さんは本当に教えがいのない生徒ですね」

「わかりましたよ…先輩は顔見るたびに、何度も同じことを言うんだから…」


 佑樹とのレッスンも2カ月を経ようとしていた。第1回目のレッスンでギターを新弦に張り替えたが、もうだいぶくたびれてきたので、今日は御茶ノ水で待ち合わせし、汀怜奈と佑樹で連れ立って新しい弦を買いに来ていたのだ。


「これでも、努力してるつもりなんですけどね」

「努力は認めますが…本質的な意欲というもの…つまりギターがうまくなるんだという覚悟がないように思えます」

「そんなものに覚悟なんているんですか?」

「そうですよ。なんでもやり遂げる覚悟というものが大切なのですわ」

「そんなもんですかね…ところで先輩、今日はなんだか変ですよ」

「なんです?」

「なんか…怒ってもいないのに、いつのまにか女言葉になってます」

「えっ、そんなことはない…だろ」

「ただでさえ先輩は美形なんだから、女言葉なんか使ってると、勘違いした男に言い寄られてしまいますよ」

「余計なお世話です…」


 何故か狼狽して立ち止まる先輩。


「とにかく早く買い物して、レッスンを始めましょう」


 そう言いながら、佑樹は先輩の肩を押して楽器店に入った。

 それにしても、本当に先輩は華奢な肩幅してるよな…。そんな思いを抱きながら彼は言葉をつなぐ。


「いくらギターがうまくなっても、当の彼女に彼氏が出来てからでは手遅れですから」

「そうですね…。あっ佑樹さん、ナイロン弦はここですよ」


 これはどうだ、あれはどうだと、ふたりして肩を並べて弦の物色していると、その背後から声をかけるものがいた。


「あのぅ…」


 ふたりが同時に振り返る。


「もしかして…村瀬汀怜奈さんではないですか…」

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