第124話

 泰滋の突然グセがミチエに乗り移ったのだろうか。


 その日の晩御飯の席で、ミチエの爆弾発言が炸裂する。


「この家に娘のように一緒に住まわせていただいているのに、泰滋さんとの結婚を来春まで待つ理由がよくわかりません。すぐ、結婚させてください」


 泰滋も父親も口にしていた冷奴を吹き出しながら咳き込む。


「なんで、そないな急なことを…」


 泰滋の母も困り顔だ。


「今日町内会のこども達に、お嫁さんでもないのに石津の家にずっといるのは変だと言われました。私は気にしませんけど…お義父さんやお義母さんにご迷惑をお掛けするのもいやです」

「そやかて…千葉のおうちにも準備の都合が…」

「ええやないか。ミチエさんさえ構わなければ、僕はかまへん」


 泰滋は口の周りを豆腐だらけにしながら満面の笑顔で母親を遮った。


 かくして、泰滋とミチエの結婚式が、泰滋の卒業を待たずに執り行われることになった。

 といっても、ふたりは10月まで待たされることになる。京都人は祝言をあげるなら平安神宮というのが常識で、平安神宮がその月まで空きがなかったのだ。

 一方両家の親は大変だ。ミチエが爆弾発言をしてから2ヶ月後。親族だけのささやかな祝言とは言え、両家はせめて人並の結婚をとその準備に大忙しであったのだ。


 1年にわたる文通でお互いを理解し合ったとは言え、まだ年端もいかない大学生と女子校生のふたりが、初めて会ったその10日後に婚約し、その8ヶ月後には紋付袴と文金高島田を身につけて、平安神宮境内で記念撮影を撮るカメラの前に立っている。なんと人騒がせな若者たちだろう。

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