第123話

「おねえちゃん、どこから来はったの?」

「千葉よ」

「えらい遠いんやろ?」

「ええ」

「こんな長いこと自分の家から離れてて、寂しくならへんの?」


 そう言われてみれば変だ。ここに来てまだ、ホームシックなどを感じた覚えがない。


「きっとシゲにいちゃんが、帰してくれへんのや」


 ひとりの女の子がわかったような顔で言い放つ。


「あんな優しいにいちゃんが…嘘や、そんなことあらへんやろ」

「シゲにいちゃん言うてたで。おねえちゃんは、家族よりに一緒にいたいと思える人、なんやて。そやから帰してくれへんのや」


 子どもたちの言葉が、ミチエの本心を意識の水面に浮かび上がらせた。

 そうだ、自分がここに居続ける理由は、彼に言われたからではなく、私にとっても泰滋さんが家族以上に一緒にいたい人だからなのだ。


『好きとか愛とかは、未だによくわからないけど…結婚するっていうことは、そういうことなのね…』


 ミチエは、彼方で子供たちの写生を覗いている泰滋を見つめた。


『私は泰滋さんの妻になる』


 19才のミチエが、結婚を自分の現実として受け入れた瞬間である。やっと泰滋の妻としての自分が、容易に想像できるようになった。


「ミチエさん。時間です。みんな連れてそろそろ帰りましょう」


 泰滋が子ども達に帰り支度を促しながら、ミチエに言った。


「はい」


 そう答えながら泰滋を見つめるミチエの眼差しが、少女から大人の女に変わっていることなど、ぼんぼんの泰滋にわかろうはずもない。

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