第113話
宇津木家の人々は、泰蔵の申し出にしばし言葉を失った。
ただでさえミチエの母は泰滋の父親が突然乗り込んできてパニックになっているのに、こんな申し出を受けては、返す言葉も支離滅裂にならざるを得ない。
「実は、ミチエはバスケばかりやっておりまして…」
困惑している親同士の話だから、なんか話が噛み合わない。
「結婚は…もちろんお許しをいただければの話ですが、こいつが大学を卒業してからということで…」
「料理といっても、お米を研ぐくらいのことしか…」
「それまでは、婚約ということで…」
「そういえば、泰滋さんに美味しい京のお漬物いただきまして、お礼もまだちゃんと言わず失礼おば…」
「おかあさん」
たまらず長兄が口を挟む。
「そんなことより、ミチエの気持ちを聞くことが先だろう。どうなんだミチエ。石津さんからいただいたお話しをお受けできるのか?」
ミチエは、後年この時のことを思い出すたびに、笑って泰滋を責めた。
初めて会ってから10日目、本人へのプロもーズもなく、家族の前での電撃的な求婚、彼女に考える暇もなく返事を迫ったのは、彼の策略だったのだと言うのだ。
実際、あれは了解の意味で首を縦に降ったのではなく、あまりにも急な話しでパニックになり、一瞬気を失いそうになって、思わず頭を垂れたのだと言い張る。
ミチエの気持ちもわからないこともないが…しかし、そんな花嫁の状況はともかく、めでたくも宇津木家からミチエが、石津家へ嫁ぐことが決まったのだった。
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