第105話

 ピックガードを剥がしてみると、剥がれた場所の木地が他の場所と相当に色が違う。かなり昔から貼られていたのだろう。汀怜奈はそんな昔からいじめられていたこのギターを思うと、可哀想で涙が出そうだった。

 ピックガードが取り除かれたら、次になんとかしたいのはスクラップピンだ。しかし後から取り付けられたスクラッププピンについては、ギターの尻に穴を開けての取り付けだから、下手に外すとギターを傷つけかねない。汀怜奈はギターに手を合わせて謝り、泣く泣く我慢することにした。


「おわりました」

「そう、次は弦の張替え」


 汀怜奈は自分のデイパックから弦を取り出した。家にあるプロ仕様の弦(ダダリオ社のPro-Arte Normal Tension)を持ってきたのだ。汀怜奈は演奏では、ハードテンションを使うのでノーマルテンションはたくさん余っていた。


 ブリッジの弦の留め方を佑樹に教えると彼は器用に弦を張り替えた。料理もこなす佑樹のことだから、器用なことは間違いないのだが、なぜかギターを弾こうとして構える姿より、ギターをいじる姿にオーラを感じる。汀怜奈は佑樹がギターと奮闘する姿を眺めながら不思議な気分に浸っていた。


「知っていますか?」


 汀怜奈が手持ち無沙汰になって、作業中の佑樹に話しかけた。


「弦を使った楽器は太古の昔からあるのですけれど、ギターの基礎となるものは16世紀にスペインで誕生したと言われています」

「そうなんですか…」

「ただし、今のように6本の弦の形になるまでは18世紀の末まで待たなければなりません」

「ふーん」

「同じ時代に生まれた弦楽器としてはヴァイオリンとかチェロとかあるのですけれど、ギターにはそれらにはない最大の長所がありました」

「なんです?」

「たった一つの楽器で、同時にいくつもの音が出せるということです」

「それって、長所なんですか?」

「ヴァイオリンとかチェロとか、管楽器もそうですけど、ほとんど単音でメロディしか奏でられないでしょう。だから、和音をつくろうと思ったら重奏とか楽団にしなければならなかったのです」

「うん…言われてみればそうですね」

「でもね、それと同時に致命的な欠点もありましたの…ですよ」

「致命的な欠点?」

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