第104話

「さて、先輩。どこから始めます」


 汀怜奈が練習と演奏活動で忙しい合間に時間を作って、苦労してやってきたことなど全く知らない佑樹。橋本ギターを抱えた彼は、ベッドの端に腰掛けて呑気に彼女を迎えた。

 汀怜奈は佑樹を一瞥しただけで、彼に演奏家としてのセンスがまったくないことがわかる。とにかくギターを構える姿がシマらないのだ。しかもなぜギターを弾くのにサングラスをかける必要があるのだろうか。音楽に向かう姿勢が全くなっていない。


「まずはそのサングラスを外して…」

「やっぱり…」


 多方そう言われることは予想したいたのだろう。佑樹はニヤニヤしながらグラスを外した。


「次に、ギターに貼り付けてあるピックガードをはがすことから始めていただけます」

「えっ、そんなことして大丈夫なんですか?」

「ええ、もともと、そのギターにはピックガードなんてついていなかったのですからいいのです。私に教わりたいなら、言うとおりにしなさい」


 佑樹は首をかしげならも、渋々汀怜奈の教えに従う。苦労して爪を立てると、セルロイドで出来たピックガードを剥がし始めた。


「ところで先輩って変わったところありますよね」

「なんですの?」

「いつも怒ると女言葉になる」

「そんなことどうでもいいの。作業に集中しなさい。いいですか、トップ板を傷めないようにゆっくりと慎重に剥がすの…だよ」


 汀怜奈の厳しい指導に、佑樹も慎重に作業をすすめた。

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