第75話

 泰滋がホテルの入口が見える場所にたどり着くと、果たして視線を下げず毅然と前を向いて立っている女性を見いだした。


 泰滋はその女性がミチエであることがすぐに分かった。そして、写真の中の8人の女子高生の中で、この人だと、いや、この人であればいいと目星を付けた女性であったことに少なからぬ衝撃を受けた。そう、喜びではない、衝撃なのだ。それほど生で見るミチエはインパクトがあった。相手はまだ自分に気づいていない。しばらく泰滋はミチエを観察した。


 清楚なワンピースに上着を羽織り、小さなバックを両手で前に持つ彼女。小柄ながらさすがにスポーツで鍛えた身体は均整がとれている。適度な筋肉と脂肪が付いていながら、手首や足首やウェストなどが締まっているからメリハリのある体型だ。

 写真の彼女とは違って髪は多少長めにしている。部活を終えてやっと髪を伸ばせるようになったのだろう。横長に切れたすずしい目元、そして神秘的な漆黒の瞳。これは写真ではわからなかったが、たとえようもない潤った輝きを呈している。

 目の前に居るのは女子高校生ではない。まぎれもなくひとりの女性であった。運動着姿の活発な女子高生の写真を見慣れていた泰滋にとって、衝撃的であったことに無理はない。


 泰滋はゆっくりとミチエに近づいていった。やがて、ミチエの視線が泰滋をとらえた。不安そうであった眼差しが、輝くばかりの笑顔に変わる。1メートルの距離に近づいた泰滋。初めてあったはずなのにひとことも挨拶せず、だた黙って笑顔で見つめ合っている。泰滋22歳、ミチエ19歳。ふたりは初めて、直接お互いの視線を絡ませあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る