第65話

 その後も定期的に泰滋からの手紙は届いた。


 ミチエは、その手紙を読む時に写真を机の上に立てて読む習慣が出来た。読みながら、写真を見ると、写真の中の彼がまるで語っているように感じるのだ。残念ながらその声は聞いたことがないのだが、たとえそれが想像上の声だとしても、ミチエの耳にははっきりと聞こえてきた。


 相変わらず日々の暮らしの中から、泰滋が感じ考えたことが、淡々と、そして楽しく綴られている。返事を強要するような手紙はない。それが、ミチエにはありがたかった。あまりにも激しい練習で疲れきって帰宅した時、布団に倒れ込む前に机から写真と手紙を取り出して、前に来た手紙を繰り返し読むこともある。まるで、写真の中の彼が自分を優しくいたわり、そして励ましてくれているかのように感じる。いつしか彼が、ミチエにとってそんな近しい男性になっていたのだが、バスケ一筋で過ごしていたミチエにとっては、それが恋への入口なのだとは微塵も思うことができなかった。


 高校球児の誰かさんとは違って、ミチエは真夏の予選を勝ち抜き、インターハイへ。全国制覇は出来なかったものの、それなりの成果を残して、ミチエの高校バスケは終わった。

 終わった時の彼女の状態は、まさにあの高校球児同様『「明日のジョー」のエンディング状態』である。しかし、彼女はギターを握る必要がない。少し休んだ後、ミチエはペンを握った。

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