第60話
「ああ、先輩。目が覚めました」
「なんでわたくしがここに?」
「ゆうべ、ヘベレケに酔ってカフェバーで寝ちゃったでしょう。憶えてないんですか?」
「えーっ?」
「財布も免許もなくて、先輩の家がどこかわからないから、自分の家に連れてきちゃいました」
「でも、なんで佑樹さんがわたくしの布団の中に居らっしゃるの?」
「やだな…ベッドを提供して自分は床に寝てたのに、先輩ったら寝相悪くて、床に落ちてきて…。しかし、スリーパーホールドしながら寝るなんて、さすが先輩、相当な格闘技好きなんですね」
「キャーッ」
「あっ、先輩。どこへ…」
布団から飛び出して再度叫び声を上げた汀怜奈は、佑樹の問いにも答えず階段を駆け降りた。
「ふぁれ?佑樹の先輩。どうふぃました」
階段の下では、薄くなった頭にタオルを巻き、泡だらけの歯ブラシを咥えた佑樹の父が、不思議そうな顔で汀怜奈を待ちうけていた。
「キャーッ」
見知らぬ、しかもトランクスパンツにTシャツ姿のむさ苦しい姿の男と遭遇した汀怜奈は、三度目の叫び声を上げ、自分の靴を手に一目散に外へ飛び出していった。
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