第51話

 仲良し4人組の箸が止まった。

 知らぬうちに担任教師が彼女達のテーブルの脇に立っていたのだ。この担任教師は気配をさせずに近づくことから『忍ババ』というあだ名を持っている。


「お前達、行動計画書になかったけど、昨日の自由見学の時間に、同志社の男子学生と会ってたのか?」


 『忍ババ』の思わぬ指摘に、4人の背筋がピンと伸びる。食事どころではなくなってきた。


「どうしてそれを…」


 アオキャンの疑問に『忍ババ』は顎を上げて自慢げに答える。


「今日、旅館に宇津木を訪ねて大学生が来たわよ。土産のお礼だと言って、これを持ってね」


 阿闍梨餅の包みをテーブルの上に置くと、ミチエが席から飛び上がった。


「えっ、なんて言う名前の人です?」

「たしか、石津とかなんとか…」

「どんな人でした。背の高さは?痩せてました?太ってました?」

「いや、背はそんなに大きくなかったけど、中肉中背の、軽快な感じで…」

「顔は…ハンサムでした?」

「ハンサムと言えば、ハンサムかもしれないが…」

「どんな目でした?」

「うむ…とにかく優しそうな目だったかも…」

「どんな声です?」

「どんな声って言われても…」

「他にはどんな印象でした?」

「印象…憶えてないなぁ」

「先生!しっかり想い出してください!」


 エライ剣幕で詰め寄るミチエに『忍ババ』もたじたじだ。

 このままミチエが押し通してくれれば、無許可行動の罰も免れられるかもしれない。他の3人の女子高生たちはほくそ笑んだ。

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