第40話

 彼は家財を売り払って一台のスペイン製のギターを購入すると、それを分解して徹底的に研究した。


 ギターの材質、構造、接着剤、塗装。そして試行錯誤を繰り返しながら、5年の歳月をかけて、ようやく彼は第1号器を完成させて世に送り出す。橋本ギターの第1号器だ。


 その後、『マルイ楽器製造』という会社を立ち上げ、何人かの職人も雇い込んでギターを創り出していったが、橋本は、殺人兵器ではない平和的なギターという楽器づくりに安らぎを覚え、その魅力にのめり込む。経営に関してはまったく関心がなかった彼は、量産という発想がまったくなく、一台一台手造りする姿勢は崩すことがなかった。結局、終戦後のギターブームの波にも乗ることができず、1967年に永眠するとともに人手に渡った会社も、その5年後に倒産することになる。


 汀怜奈は、最後にそこで作られたギターが現在どうなっているかを聞いたが、資料室の職員はおろか商工課でも誰も知るものが居ない。諦めて市役所の外へ出ると、もう久留米の街は暗くなっていた。ホテルに戻り、いろいろと思案したが、とにかく次に自分ができることは、『マルイ楽器製造』のあった場所に行ってみることだと結論付けた。

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