第25話
「そうや。じゃいけんで勝ったから、ひとつ返事を受け持ったんやが…ちょっと困ったことになってな」
泰滋は話しの方向が見えて来ると、イノウエコーヒに来てしまったことを段々後悔し始めてきた。
「新聞部では誰も知らん話やが…わてには婚約者がいるのや。親が決めた相手やけど、家の事情でな。よう断れんし、大学卒業したら結婚や」
泰滋は不用意に発言するのも危険だと思い、黙って進一郎の話しを聞き続けた。
「それがな、なんで知ったんかわからんが、女子高生と文通しているって、婚約者が知ってな。エライ怒りようなんや。いくら『文通運動』だというても、理屈のわからんおなごの頭では理解でけへん。このままだとエライことになりよる」
「文通やめればええやないか」
「そや、その通りや。けどな、そう簡単に辞めると言うわけには…」
「俺にどないせい言うんや?まさか、代わって文通やれと言うんやないやろな」
「そこまでは頼まへん。ただ、うちに代わって1通だけ手紙を書いて欲しい」
「なんやて?」
「『進一郎が事故でけがをして、当分ペンが持てん。手紙を頂いて返事が書けぬ不義理を重ねるのも本意ではないので、あなたとの『文通運動』をここで終わりにしたい。と、進一郎がすまなそうにそう申しております。代筆泰滋。追伸、進一郎の容体は命に別条はないのでご心配にあらず。』てなかんじやな」
「正直に書けばええのに」
「相手は純真な女子高生やで。婚約者が怒ったなんていう理由で辞めるというたら、傷つくやろ」
「ならば、なんか理由考えて、自分で書けばいいやないか」
「どんな理由でも、五体満足で手紙が書けるのに辞める言うたら、それも傷つくやろ」
泰滋は呆れたように進一郎を見つめた。
「それこそまさに、『ブルジュア的偽善』ていうやつや」
「お前は、プロレタリアートか」
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