第12話 宿泊②
タクシーは函館の温泉街、湯川へと
向かいかなり高級そうなホテルというより旅館で停車した。
「カード、使エマスカ?」
ヴィクトリアが運転手に尋ねたが
ここは私が支払うべきだと思い
ヴィクトリアを静止し運転手に声を
かけた。
「私が出すからいいです。このぐらいは持ち合わせあるので。」
私が財布を出し現金で支払うと運転手はわざわざ車から降り
トランクからスーツケースを
下ろしてくれた。
「啓太、アリガトウゴザイマス。」
ヴィクトリアがニコニコと微笑む。
本当に目が見えていないのかと不思議になるくらい私の事を見つめている
ように話すヴィクトリアに対して
どこを見たら良いのか分からなくなり私は空を仰ぎながら
「いやいや」
と短く答えた。
「おかえりなさいませ。佐野様」
ホテルの中に入るやいなや和服姿の
女性が近寄って来た。
「女将サーン!ヨロスクデス。」
ヴィクトリアはその女将と呼んだ女性とハグをして嬉しいそうにしている。
「お疲れ様でございます。お連れ様、お荷物お預かりいたします。」
「あっはい、お願いします」
和服姿にエプロンをした女中さん思しき女性に声をかけられスーツケースを渡した。
ヴィクトリアは常客なのだろう。
女将に手を引かれながら
お部屋へ案内しますねなんて話ながら歩き出す。
後ろからスーツケースを運ぶ女中と
私が着いて行く。
逸れないようについて行かねば
迷子になりそうな広さがある
ホテルだった。
客室はエレベーターで5階の和洋室。
とても広々としたゆったりとした
いい雰囲気の部屋である。
「佐野様。お食事はいつものお時間にお部屋にご準備させて頂いてよろしいでしょうか?」
女将はヴィクトリアを窓際の椅子へ
導くとそう言った。
「ハイ、イツモ通リニ頼ミマス。」
ヴィクトリアが答えているのを見ながら、もう何回も恋人と来ているに違いないなと思い、慣れてる感じが何だかとても恨めしくなった気持ちをはぁぁぁと溜息として吐き出してしまった。
いけないと思い急いで咳払いをして
誤魔化した。
女中がお茶を入れてくれたが
どこに座っていいのか戸惑い室内を
ウロウロとしていた。
「佐野様。浴衣などは全ていつもの
通りにしてありますので、またお食事準備に来させていただきます時に
お電話差し上げます。露天風呂へ
お入りになってゆっくりしていて
ください。」
女将がそう言い、頭を下げると女中も頭を下げ部屋から出て行く。
こんな高級なホテルに宿泊などした事がないので私は、今更ながら申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら
お金を下ろさないと足りないかもしれないという不安に襲われてもいた。
「啓太?ズット黙ッテマスガ大丈夫?」
ヴィクトリアがお茶飲みながら心配そうな声で言った。
「こんな高級ホテル初めてだから
なんかちょっと緊張してしまって。」
私はそれだけ言うとその場にヘナヘナと座り込んだ。
「露天風呂入ッテキテ、ユックリシテ。」
ヴィクトリアはコートを脱ぎ椅子にかけると私に先に露天風呂へ入るように勧めてくれた。
「ヴィクトリアのが疲れてるんじゃない?先に入って。申し訳ないし。」
私はヴィクトリアに先に露天風呂へ入るように勧めると
畳に吸い込まれるよう畳に倒れ込んだ。
疲れた。
離婚届を突きつけられてから4日目
あれ以来まともに眠ることができずにいた。
また現実から逃げる事で精一杯だったこともあり
心も身体も疲労がピークだった。
「啓太?温泉入ッテカラ、ユックリシテ」
もう一度
ヴィクトリアの声がしてるのはわかるが
もう目蓋が重くて身体も動かしたく
ない。
「ヴィクトリアが先にどうぞ…。」
なんとか返事をしたものの、私は
そのまま意識を手放した。
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