第11話 宿泊

バスはそれから函館駅前に戻り

もうほとんど閉まっている店ばかりの朝市を見学してから金森倉庫散策を

手短に終え午後の函館観光バスツアーは終了した。

ヴィクトリアは朝市の海鮮や活イカに喜び、はしゃいでいたが

俺はヴィクトリアと宿泊しなければならないとう事に戸惑いを隠せず

朝市を楽しむことができずにいた。


2人で来るはずだったと言った

ヴィクトリアの言葉も気になっていた

この場合はどう考えても恋人だろう。

その代わりに

浮気された挙句に離婚届を押し付けられなんの返事もできないまま

逃げてきたような男が一緒に泊まれるはずがない。

あまりに恥ずかしすぎる上に情けないではないか。

ヴィクトリア自身にも何かがあっだのだろうが、そこに踏み込んではいけないような気がしていた。


観光案内所からスーツケースを受け取り電話番号のことを謝罪し後にした。


ヴィクトリアがタクシー乗り場の

ベンチに1人座っているのが見えた。


やはりネットカフェに泊まろう。

それが一番いいと思う。

そう決めてヴィクトリアの側へと

歩いて行く。

日が傾きかなり涼しい風が吹きつけている。

ヴィクトリアはコートの襟を立て

縮こまるような仕草を見せた。


ドクン


まるで心臓がジャンプしたかのように跳ね上がる。

歩みを止め胸に手を当て静まるように何度も撫でる。

何度か深呼吸を繰り返してから歩き出す。


「おまたせしました。寒かったでしょう。すいません。」


私はヴィクトリアに声をかけた。


「啓太…他に泊りたいですか?私といるのは嫌ですか?」



「えっ?いやいやそういう訳じゃないけど。」


ヴィクトリアから戻ってきた言葉に

驚き、動揺してしてしまい断りそこねた。


「違うならいいのです。私のホテルへ行きましょう。」


ヴィクトリアは立ち上がり停車して

ドアが開いているタクシーへ歩き出した。


俺は急いでヴィクトリアに駆けより

運転手へトランクを開けてもらうように頼みスーツケースを入れタクシーへ乗り込んだ。


ヴィクトリアがホテルの名前だけを

言うとタクシーはゆっくり走り出した。


俺は自分が嫌な態度をしてしまったのではないかと不安になり、また反省をしながら人付き合いができない

自分を呪った。


ヴィクトリアになんと声をかけていいのかわからなくて

ずっと黙っまま流れて行く景色を見ているしかできなかった。

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