第10話 戸惑い
ホテルが取れなければ漫画喫茶で一夜を過ごすしかないなと考え、六花亭カフェを後にしラッキーピエロまで歩いた。色々食べてみたいものがたくさんあったが一番人気のチャイニーズチキンハンバーガーとポテトを購入し、早々にバスへ戻った。
しかしまだ集合時間には余裕があったためドアは閉められ鍵がかかっていた。仕方なく私は横断歩道を渡り五稜郭タワーの売店へと入った。
土産は買うつもりはないので通り過ぎ奥へと進んだ。
ソフトクリームやメロン、ビールや
パンなどを販売している店があったのでビールを買い近くのベンチへ腰を
下ろした。
ここ最近ずっとビールを飲んでばかりいるが
酔えない。酔えたらどんなに楽だろうか?
ビールを一気に飲み干し時計を見ると集合時間まであと10分ぐらいだった。そろそろバスも開いているだろうと思い、立ち上がりゴミを捨てるとヴィクトリアが階段から降りて来たのが見えた。またあのキラキラとした羽根の生えた女性や子どもが彼を守るようにしているのが見えた。
「綺麗…」
思わず呟いてしまったことに戸惑い、逃げるようにしてバスへ向かった。
バスに乗り込み席に座り目を閉じる。
ヴィクトリアに対して綺麗だと感じたのはもう何度目かだが、男が男に綺麗だなんておかしすぎる。
酔ってるのか?離婚のショックで頭おかしくなっているのか?
自分に何が起きているのかが分からない。
ワイワイとバスに皆が戻ってくる声が聞こえ、目を閉じたまま黙って
下を向いていた。
ギシィと音を立て隣の席が沈む。
ヴィクトリアが戻っできたのだろう。俺は少し目を開け隣を見る。
「啓太?起きてますか?」
穏やかなヴィクトリアの声に頭を
上げしっかりと目を開く。
「起きてます。タワーはどうでしたか?」
俺は彼の顔を見ないようにしながら
返事をした。
「はい、私は見えないですけどとても綺麗な場所だと感じることができました。これ土産です。」
ヴィクトリアは缶ビールを俺へと
差し出した。
「ありがとうございます」
見えなくても雰囲気などでこの歴史ある場所の良さを感じとっているヴィクトリア。
変な事で悩み嘘までついて避けた自分が情けないと感じながらもビールを
受け取り礼を述べた。
「ガイドさんから聞きました。今夜泊まるホテルが見つからないと。」
何、余計なことをペラペラと
あのガイド!
私は頭を掻き毟る。
「ああ、急に来た旅行だったんでしかたないですね。ネットカフェにでも泊まります。」
貰ったビールを開け勢い良く喉に流し込む。
ヴィクトリアは自分もビールをちびちび飲み始めると
「私の部屋にきませんか?2人部屋を予約してあります。良ったら今日のお礼にぜひ。」
ヴィクトリアの言葉に思わずビールを吹き出しそうになる。
「えっ、あっ、いやっ、えーっと
そのお礼なんてしてもらうようなことしてないですからいいですよ。」
俺はハハハと乾いた笑いを言葉の後に付け足した。
「本当は2人て来るはずだった旅行なんで1人は寂しいなぁと…啓太はいい人で楽しいから。お願いします。一緒に泊まりましょう…ネ?」
有難いが今のこのモヤモヤしたよく分からない感情のままヴィクトリアと2人は正直辛い。
下を向きを頭を再び掻き毟っていると
ヴィクトリアの手が俺の手をギュッと
握りしめる。
「どうしても嫌なら眠るだけに使ってください。」
言葉とは裏腹にヴィクトリアの顔は
寂しそうな悲しそうな今にも泣き出しそうな表情をしていた。
「じゃ遠慮なくお言葉に甘えさせて頂きます。」
こんな表情見たら断れる訳がない。
心底、自分が情けなくなった。
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