第8話 観光 ②

「武内さん!武内さーん!!」


正面の入り口からバスガイドが私を

かなり大きな声で手を振りながら

呼んでいた。

なにやら慌てた様子だったので

俺は小走りにガイドの側へ向かった。


「彼ならまだあっちでお祈りみたいなことしてますよ。」


俺はガイドにヴィクトリアの事かと

思い伝えた。


「佐野さんの事じゃないですよ。

武内さん観光センターにホテル探してくれって頼んでました?」


ガイドは溜息をつき苦笑いする。


「あっはい頼みましたけど?」


「武内さんの携帯繋がらなくて困ってたらしく、私の方へ来ましたよ。」


ガイドは携帯をヒラヒラとさせる。


「あーすいません」


携帯を解約した事をすっかり忘れて

番号を書いてきてしまったことに気づき、ガイドへ頭を下げた。


「いいですよ。気にしないでください。ただ武内さんが希望している

グレードのホテルの空きがないみたいでして、一応探しときますがという話でした。」


ガイドは観光センターの電話番号ですと付箋を俺に手渡した。


「ありがとうございます。すみませんでした。あとで連絡します。」


俺は再びガイドに頭を下げた。


「大丈夫ですよ。ホテル見つかるといいですね。」


ガイドはそういうと他の客に呼ばれ

行ってしまった。


やってしまった。

恥ずかしい。

こういう所がダメなんだろうなと

感じて落ち込む。


大きな溜息が口から吐き出される。


「あっ集合時間!!」


俺は時計を見て焦った。集合時間まで間に合うようにヴィクトリアをバスへと連れて行かなくてはならない。

これ以上の失態は許されないと思い、

彼はまだ先程の場所で膝をつき手を

合わせている彼の元へ走って行き

声をかけた。


「ヴィクトリア、そろそろ行かないと時間です。」


目を閉じ俯き祈りを捧げている彼。


「啓太、ありがとうございます。」


彼はゆっくりと立ち上がるとマリア像へ頭を下げた。

先程まで見えていた天使や綺麗な女性たちは見えなくなっていた。

すっと一瞬、冷たい風が俺の身体をすぎて行った。その瞬間、彼が急に何処かへ行ってしまいそうな気持ちになり、俺は無言で彼の手をとり繋いで

歩きだした。


「啓太?」


ヴィクトリアが不思議そうな声を出したが返事をせずにバスへと急いだ。


バスへの乗り口でガイドが

ヴィクトリアにどうでした?と話掛けてきて、素敵なマリア様に会えて幸せですと彼は笑顔で答えていた。


顔も良くて、性格も穏やかで、ちゃんとしていそうなヴィクトリアに対して

なんて自分は情けないんだと劣等感に苛まれた。

彼には全く罪もないのに俺は自分勝手に彼に対して苛つきを覚え、先にバスへ乗り込んだ。


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