第6話 出会い ②
スーツケースをガラガラと派手な音を立てながら改札を抜け
駅員に観光案内所や観光バスを
案内してくれるような場所はないか
尋ねると駅舎を出てすぐだと教えて
くれた。
ありがとうございますと礼を言い
頭を下げ外へ出る。
人間?よくわからない赤いモニュメントがあった。以前からあっただろうか?記憶にない。
その前に長身のトレンチコートを羽織った男性が立っていた。モニュメントでも見ているのだろうか?
再度、男性の姿を見た私は目を
疑った。
男性の周りにはキラキラと輝く
眩いばかりの光と共に羽が生えた
子供や女性が見えたのだ。
頭までおかしくなったかと眼鏡を
外し強めに目をこすり、
再び眼鏡をかけなおした。
しかし何もあるわけが無い。一瞬見えた天使の様な子供や女性はどこにもいなかった。そこにはただ男性が1人
立っているだけだった。
ビール何本飲んだか考えたが思い出せなかったので、酔ったなと反省しながら幻覚か?なんて思いながら
急ぎ足で観光案内所へ向かった。
案内所は空いており
すぐにカウンターに座っている女性に安いホテルと観光バスを探してもらった。
「お客様、バスがもうあと少しで出発時間なんで、ホテルはおかえりにはご案内できるようにしておきますので、よろしいですか?」
少し訛りはあるが丁寧に女性が言ってきた。
「はい、わかりました。大丈夫です。」
俺はそう答え、リュックから財布を取り出す。
「お昼召し上がりましたか?
このバスはお昼、オヤツなどお食事がついておりません。また半日コースなんで観光場所での滞在時間が短く、
食べる時間などはないかと思われます。心配ならばあと15分はあるので
購入して下さい。乗り場はあちらになります。白いバス見えます?
もうバス来てますからね。ホテルは
見つかり次第、携帯へお電話させて
頂きまして、おかえりになりましたらご確認をして頂くようになります。
ここまででご質問ありますか?」
彼女は一気に話切ると微笑んだ。
「大丈夫です。」
短く答え料金を支払いスーツケースを預け俺はダッシュで駅舎内にある
コンビニへ走った。
サッポロクラシック数本と鮭とばを
買い、隣の弁当屋で鮭いくら親子丼弁当を購入しバスへと走った。
ガイドの女性が俺が走っているのを
見て微笑み手を振りながら
「なんも、そんな急がなくても間に合いますよ。」
と言ってくれた。
「すいません。大丈夫ですか?
武内一名です。」
はぁはぁ息が弾んで上手く話せて
なかった気がして顔が熱くなる。
「大丈夫ですよ。はい、武内様一名様ですね。よろしくお願い申し上げます。ゆっくり息ついてからでいいから、これどっかにつけて下さいね。」
ガイドさんからツアー客の印のバッチを手渡された。
これ付けたくないなあ。
穴開くしダサい。
そんな事を考えながら、席を探そうとドアに貼ってある席順表を見ていたら
「武内さん、すみませんがお願いが
あります。」
改まった声でガイドが話しかけてきた。
「はい。」
一体なんだ?面倒はごめんだぞ。
「このコース有難い事に満席でして、男性一名様とご一緒に座って頂くようになります。」
「はい。大丈夫です。」
私はそんなことかと思いながら答えた。
「そちらの方、視覚障害者の方で
いらっしゃいますので、私も気をつけてはいますが、バスの乗り降りだけ
お手伝いしていただけませんか?」
なんつー面倒な話だ。
しかし嫌だなんて言えるわけが無い。
「わかりましたが、お手伝いなんかできないと思いますよ。」
苦笑いしながら軽く拒否したつもり
だったが、ガイドに大丈夫大丈夫と
言われバスの中へ連れていかれた。
車内はほぼ満席状態であり年齢層が
高かった。
「武内さん、こちらの席です。どうぞ。」
ガイドに促されたのは運転手のすぐ後ろの席。
窓側にはトレンチコートの男性が座っていた。モニュメントとの前に立っていた男性だった。
「佐野さん、こちら一名様の武内さんです。よろしくお願い申し上げますね。」
ガイドが早口で話しかけるも反応がない。サングラスをかけているため表情もよくわからない。
「佐野さん!!隣のお客さん来ましたから。」
ガイドは彼の膝をポンポンと軽く叩きながら再度ゆっくりと声をかけ、
俺に隣へ座る様にどうぞどうぞと
ジェスチャーをした。
「ハーイ、アリガトゴザイマス」
なんでこんな外人訛りなんだ?
そう思いながらサングラスの隙間からそっと彼の顔を見ると
超絶イケメン外国人ではないか。
黒ニットから出でいる髪は銀色。
俺、英語全くできないのなに…。
出発の挨拶をしてるガイドを睨みつけてやりながら溜め息をついた。
「ごめんなさい。ご迷惑ですよね?私、1人でも大丈夫ですから気にしないでください。」
あーやばい。気を遣わせてしまった。
「いや、ちょっとビックリしただけです。大丈夫ですから。えーと武内と言います。よろしく。」
俺は少し戸惑ったが彼の手を掴み、
自己紹介をした。
「タケ、武内さん、ありがとうござます。よろしく願いします。私は佐野・ヴィクトリア・和希です。」
とても流暢な日本語で彼は私に自己紹介をした。函館駅前で彼を見かけた時の幻影を思い出し彼のことをマジマジと見てしまった。
綺麗だった事を思い出した。
そして改めてやはり綺麗だな思った。
話をしなければと思いながらも悩んでいたら、バスは出発し海岸線の道を走り出していた。車窓から太陽に照らされ光る海が見えた。
「太陽に照らされ輝く海がとても綺麗に広がっています。カモメが楽しそうに飛んでます。」
私は目にした景色を考えながらも
言葉にしてみた。するとまるで見えているように彼は、微笑みながら窓の方へ顔を向けた。
「暖かい光が海を輝しているのが
分かります。ありがとう武内さん。」
彼の言葉を聞き少しは景色を伝えられた事に安堵した。しかしその後の言葉がつながらずオタオタしてしまった。
誤魔化そうと購入してきたビールを
開けて彼の手に渡し
「北海道限定のビールです。
どうぞ。」
と言いすぐに自分の分も開け一気に
半分くらい飲んだ。
「いただきます。ありがとう。アー
武内さん、ファーストネイム教えてください。」
彼はビールを一口飲むとそう言った。
「啓太です。啓太。」
俺は自分の名前を言うだけなのに
とてつもなく恥ずかしく感じ、しかもぶっきらぼうになってしまい俯いた。
「啓太。良い名前ですね。啓太、呼んでもいいですか?私のことはビクトリア呼んでくださいね。」
名前を呼ばれて何故かドキッとして
しまった自分がいた。
他人から下の名前で呼ばれる事が
ほぼない自分。
慣れてないにもほどがある。
嫌だとも駄目だとも返事をすることが出来ず、黙ったままビールをひたすら飲み続けた。
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