第70話 3.5次元世界

Rito



大学2年の10月


Soutaの家に通い出して2か月


「Souta、今日は簡単なテストするぞ


俺、作ってきたから」


「まだ2か月で学力上がってねぇよ


それにまだ中2レベルだし


こんなんじゃ来年の2月に間に合わねぇよ」


「大丈夫だ、俺を信じろ


基礎分かってないと応用は理解できないから


文句言ってる間にテストするぞ」





Rei


やっぱり来ちゃった


私はいつからこんなに聞き分けの悪い


人間になってしまったのだろう





Miiaに後がないと言われて


しばらくは大人しくしていた


今は


レベルを上げることに集中するべきだって


分かってる


特殊能力を伸ばさなきゃいけないこと


取り残されてる頭脳を


上げていかなきゃいけないことも


もちろん分かってる





時刻は23時45分





Reila



結局来ちゃった


この前Miinaに注意されたばかり


でもどうしても気になることがあって


ある人を探してる


現実の世界で会うことは難しいけど


もしかしたら


この世界でなら会えるかもしれない





私にメッセージをくれた人


彼も上から降りてきている


住んでる地域は近畿地方


それぐらいしか分からない





この前


mission mobileの設定住所を変えたら


それに反応して


扉の奥の世界も変わった


京都を外したら


残りは6件


滋賀、三重、奈良、和歌山、大阪、兵庫


片っ端から探す





10才からこの世界にいるけど


今まで上から降りてきている人には


出会っていない


そんな中


メッセージが来て嬉しかった


あぁ、私と同じように


降りてきてる人がいるんだって





Haru


今日もボランティアに行ってきた


相変わらずAkiraは言葉を話さないけど


それでも俺が来た時、帰る時は


反応してるのがよく分かる





俺自身も誰かと


コミュニケーションをとるのは


正直苦手だ


だからAkiraが話さなくても困らない


話したくないのも分かる


俺も昔そうだったから





でも人間てのはわがままなもんで


話さないなら話さないで


今度は話をしてみたくなる


そう、わがままなんだ





カチャカチャ


今日もいつものように


監視室に侵入する時間が来た


時刻は23時59分


そろそろ通信を切るか



Rei


時刻は0時00分


扉が開く


監視に見つかったら大変


今日は2分で探して戻ってくる


勢いよく飛び込む





無表情の人たちをかきわけて


ひたすらかきわけて


「Ritoくーん」


響き渡るような大きな声で探す


今日も見つけられるはず


「Ritoくーん」





現実の世界ではあなたに会えない


でもこの世界でなら会える


あなたとの関係性に気づいてから


気になって仕方ない


ずっと一人だったから





「Ritoくーん」


ハァ ハァ ハァ





あっ




いた




「Ritoくん、Reiだよ


分かる?Reiだよ


あなたを探してた」


この前よりも反応してる気がする





「あのね、私」


あっ、時間が.......もうない


思ったより時間がかかっちゃったから


もう、戻らなきゃ


「また会いに行くから」


またギリギリ





ハァ ハァ ハァ

 




バタン




ドキン


ドキン





Ritoくんいた





Rito


「おっ、Soutaこの前より点数上がってる」


結果は


国語38点 数学60点 理解50点 社会30点


英語40点





「大して上がってねぇじゃねぇかよ」


「何言ってんだ


数学なんか前回より20点アップだし


理科も15点アップだ


なかなかだよ


よし、これをもとに作戦を練る」


俺からするとまずまずの出来だ


これなら間に合う


その日の夜


Soutaの明日の計画表を作り


いつの間にか寝てしまう





うーん




うーん




夢のような


久しぶりに夢でうなされた


内容は、よく覚えていない





Reila


今日はどの場所に設定しようかな


ピピピ


6県もある中から


彼の住んでいる地域を探すことが


相当大変なことは分かってる


探したとこでどうなるわけでもない


それでも気になるから

 




時刻は0時00分


扉が開く





Haru



時刻は0時00分


カチ カチ


ここ最近来てる様子はなかったから


さすがに懲りたか




あっ、いた





ほんとに物分かりの悪い女だ


俺に迷惑がかかるのだけはごめんだ


俺の相手かはよく分からないが


転生終了だけは勘弁してほしい





今回もやることは一つ


映像を削除する


無事に任務を終え


通信をonにする





あそこで一体何をしてるんだ?


毎日じゃなく、5日置きに来てる


おそらく5日周期で扉が開くのだろう





Rei


時刻は23時45分


前回から5日経って


また結局ここに舞い戻る





見つかったらとか


バレたらとか


もうそんなこと考える余裕がない


なぜだかもう会えない気がして


だから今日も彼に会いにいく





時間は5分


最短時間で


行って戻ってこなきゃ


人混みをかき分ける





Ritoくん




Ritoくん




きっと見つける




必ず見つかる




ほら、いた





前回よりもまた反応してるのが分かる


「Ritoくん、Reiだよ


反応してくれてるってことは


私のこと認識してくれてるんだよね?


あのね、聞いてほしいことがあるの


私とあなたの関係性のことなんだけど」





扉が閉まるまであと15秒


見つかったら大変


間違いなくすべてが終わる


「また5日後に来るから」


急がなきゃ





バタン





Rito


今日は土曜日


土日は朝から夜までみっちり


勉強をする日





朝7時半


いつものようにチャイムを鳴らす


ピンポーン


「はーい、開いてるから入ってね」


いつものように朝ごはんを


ご馳走になって


Soutaの部屋に行く





「よし、Soutaやるぞ


今日は苦手な国語と英語メインで


スケジュール組んできた」


「えー、まだ数学の方がいい」


「いいから、やるぞ」




今日も22時まで勉強をして


帰る準備をする


「Souta、また明日な」


「Ritoくん、ほんとに毎日ありがとう


明日も朝早くから来てもらうし


良かったら泊まっていって」


「大丈夫ですよ、また明日来ますね」





家に着いて


大学の課題を仕上げる


時計を見ると0時半


寝るか、そろそろ





「.....くーん」





「.....くーん」





なんだ、夢を見てるのか


この前も夢でうなされたし


俺、疲れてんのかな





Reila


カチ カチ


この前メッセージをくれた人の


インスタグラムの写真を眺める


闇雲に探すより写真からヒントをもらおう





人物写真はたった一枚


それも写真が苦手なのか分かりづらい


あとは風景画ばっかり





あっ、これは大学の写真かな


カチ カチ


これはどこだろう?


カチャカチャ


写真をもとに地域を特定する





この一枚の写真


大学から近くのこの川のことだきっと


mission mobileを持って家を飛び出す





ドキン


ドキン





今日は見つけられるかも





Haru


最近弟に彼女ができた


そう、俺の予想通りRenに


毎日うかれている





俺は弟に彼女ができてもできなくても


どっちでもいいが


Rikuは弟に先を越されたことで


ここ最近イライラしてる





「兄ちゃん見て、これMaiちゃんの写真」


「あー」


「ちゃんと見てよ


可愛いよなー、Maiちゃん」


はっきり言ってどうでもいい





「まぁ、いいや


今日もMaiちゃん可愛かったな」


なんで3次元の人間は


やたらと写真を撮るんだ


撮って一体何になると言うんだ


理解ができない


火事で燃えたら終わりだろ





Reila


写真から特定した地域に設定する


これで見つけられるはず


時刻は0時00分





急いで戻って来なきゃ


無表情な人たちの人混みの中を


駆け抜ける


ネット用の名前だと思われる名前を


呼びながらひたすら探す





ハァ ハァ ハァ





やっぱり難しいかな





ハァ ハァ ハァ





あと1分しかない





顔も名前もはっきりしない人を


ひたすら探す


ダメだ、あと30秒間しかない


これで見つかったらすべてが台無し





今日も見つけられなかった





バタン


扉が閉まる





Haru


今日もmission mobileの通信をoffにする


カチ カチ


今日も来てる


やっぱり5日周期なんだ





ん?何かを叫んでる


おそらく誰かを探しているのだろう


音声を拾ってみるか


雑音のせいでうまく聞き取れない


音声を拾うとこまではまだ


侵入できていない


今日もいつものように映像を削除する





Rito


昨日の夢はなんだったんだ


よく聞こえなかったが


誰かを呼ぶ声がした


寝不足だ





今日は日曜日


Soutaの家に向かう


ピンポーン


「はーい、入ってねー」





Rei


今日は日曜日


3.5次元世界で会うRitoくん


話しかける度に反応がよくなってる


表情も変わらないし、返事もないけど


昨日は私を見た瞬間に立ち止まった


こんなことははじめて





Reila


昨日も結局会えなかった


もう諦めた方がいいのかな





大人しく


レベルを上げることに集中した方がいいって


ことは分かってる





でもなんとなく現実の世界では


会えない気がする


もう一回だけ行こう


あと一回





Haru


5日ごとにあんな危険を犯してまで


何を伝えたいんだ


これだから女はよく分からない


片割れの男でも探してるのか





その男はよっぽど思われてるんだろう


俺が映像を削除してることも知らずに


勝手なもんだ





Rei


今日は木曜日、石碑の前


前回Miiaに注意されてからは


特に連絡はきていない





ということは監視をうまく


かわせてるってことなのかな


それとも監視室があるっていうのは


嘘の情報なのかな





いつものように石碑に手を当てる


今日も飛び込む


「Ritoくーん、Reiだよ


約束通り会いに来たよ」





どこにいるかなぁ


今日も会えるはず


なんとなく分かる


今までは必死に走り回って探していたけど


今日はなぜか会えるって確信してる





ほら、いた


今日はこんなに早く見つけた


彼は立ち止まっていた


まるで待っていたかのように


目が少し見開く


あっ、目が少し動いた


そーっと触れてみると


やっぱり触れることはできない





「Ritoくん、私ね気づいたの


私の片割れはRitoくんだと思うの


現実の世界で伝えたらダメだけど


ここは現実の世界ではないから


それをずっと伝えたかった」


半透明のRitoくんは


黙ってそれを聞いていた





「もうすぐ閉まるから、私戻るね」


彼の目がさらに見開く





Rito


今日は木曜日


学校が終わりSoutaの家に直行する


「よし、Souta


1か月ぶりにテストするぞ」


「1か月でかわんねぇよ」


「今のSoutaは伸びてるから


今回のテストは重要だからしっかりやれよ」


結果は


国語60点 算数75点 理科72点数 社会50点


英語62点





「Souta、だいぶ基礎は分かってきたな


すごいなぁ、よし、よし」


「やめろよ、触るな」





「明日からいよいよ中3レベルだ」


「もう、11月なのに間に合うのかよ」


「大丈夫だ、俺の当初の予定より


早く進んでるから」


22時まで勉強をして帰宅する





急いで明日からの計画を立てる


思ったよりSoutaの学力が伸びている


嬉しかった


将来こういう仕事ができたらって最近


思うようになった


寝るか





「.....くーん」





「Ritoくーん」





えっ、俺?





夢を見てるのか





えっ、Reiちゃん.....





どういうことだ


ドキン


ドキン





夢なのに俺、緊張してる


「あのね、.....


私の片割れだと思う」


えっ


どういうことだ





ドキン


ドキン


「また来るね」





ガバッ


えっ、Reiちゃんて


俺と同じ特別転生者なのか?


彼女はそれに気づいて


それを俺に伝えようとしてるのか


夢の中で





理解ができない


確かにReiちゃんのことは気になっていた


はじめて会った時から


片割れとかそういう感覚はなかったけど


ということは彼女が俺の半分.....?





Rei


今日は久しぶりのバイト


で、今は休憩時間


久しぶりだし、年末近づいてるからか


混んでる





はー、疲れたぁ


あっ、ライン来た


河原先輩、久しぶりだ





Reiちゃん、久しぶり


元気??


そういえば前に一回だけ会った


俺の弟のRito覚えてる?


ドキン





昨日夜中に突然Ritoからラインが来て


Reiちゃんはどうしてる?とか


なんか俺のこと言ってなかった?とか


色々聞いてきたから


そんなに気になるなら


連絡先教えようかって言ったら


それはいいとか言って


あいつReiちゃんに気があるみたいだよ





現実のRitoくんが反応してる


分かった


あの石碑の意味が





扉を何度も叩く者、現実世界に反映する


あの世界はつまり人の潜在意識で


成り立っている世界


私が何度か彼の潜在意識に働きかけたから


少しずつ現実世界にいる彼の


顕在意識に届いたんだ





潜在意識は無意識の領域


意識のうちの90%を占めていると言われる





願望があってもなかなか


叶わなかったり


現実世界に反映されないのは


顕在意識、つまり意識的な領域にまでしか


届いてないからと言われる





今回私がRitoくんの潜在意識に


直接働きかけたから


彼の顕在意識に届いて


現実世界の彼が私のことを


認識したんだと思う





きっと3.5次元世界と貴宝寺をつないだ人は


このことを使って


何か現実世界を変えたいと


思っていたのだろう





で、石碑に曖昧な書き方をしたんだね


頭のいい人と思っていたけど


同時に優しい人なんだと思う


だってあの部分は書かなくたっていい


自分だけ願いが叶えばって思う人なら


でもあえて書いた


きっと優しい人なんだろう





Reila


今日彼に会えなければ


諦める





ドキン


ドキン


石碑に手を当てる





開いた


今日が最後


どうしても会いたい





あなたは私と同じ特別転生者


今までずっとこの世界の


どこにいても、誰といても


ずっと孤独だったから






でもあなたがメッセージをくれてから


一人じゃないんだって


一人じゃなかったんだって


あなたなら私の気持ちを分かってくれるはず


私ならあなたの孤独を分かってあげる


時間がない





あっ......


いた.....


ついに見つけた


「私の名前はReila、あなたは?」  


「.....」


やっぱり返事はない






あと20秒しかない


「また必ずあなたを探しに来る


名前は分からなくても必ずまた


あなたを見つけるから」


あと10秒





いた





いた





three





two





バタン





Haru


今日も監視室に侵入する時間


あれからさらにバージョンアップして


毎日時間を設定したら


自動的に削除できるようになった





だから俺が見ていなくても


mobileの通信をoffにしなくても


自動的に


面倒な手間が省けたことと


何より


俺がこんな大変な思いをして


削除してあげてるというのに


それをいいことに


自分の片割れを探している女





俺は別に女には興味がない


だけど別の男が必要とされて


好かれているのを見るのは気に食わない





これで今日から自動的に削除だ


俺の頭脳はこれを作った奴と


同等ということだ


いや、超えてるはずだ


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