第41話 Each

Rito



R R R R R


電話が鳴っている


「もしもし」


「もしもし.....」


聞き慣れない男の人の声


男の人というか、多分俺ぐらいの年だと思う





「どちら様ですか?」


「......」


イタズラ電話かと思い


切ろうとしたその時


「折原さんのお宅ですか?」


「そうですけど


どちら様ですか?」


「もしかしてRitoくんですか?」





誰だ?


何で俺の名前を知ってるんだ?


「俺、Ritoくんの兄弟のRyoっていいます」


えっ、なんだいきなり


兄弟なんて聞いたことない






「兄弟がいるなんて


聞いたことないんですけど」


「俺も最近知ったんで


親父と住んでます」


なんで突然かけてきたんだ?


目的はなんなんだ?





「つい最近親父から弟がいるって聞いて


たまたま親父の部屋にある


写真を見つけたのがきっかけで」


俺には兄貴がいるのか


そもそもいつ離婚したんだ?


俺が降りてきた時にはもう離婚してたから





「とりあえず話は分かりました


で、目的は?」


「いや、ただ気になって


母親からの手紙に再婚するって


書いてあったから」


再婚のこと親父に知らせたのか





「今は仕事中でいない」


「あっ、いやただほんとに弟がいるか


気になって電話しただけなんで」


「そうなんですね」


うちの写真には


兄貴がのってる写真は一枚もなかったぞ?


隠したのか


そもそも親父とおふくろはなんで


離婚したんだ?





その日はとりあえずその兄と名乗る人と


連絡先だけ交換した


今日帰ってきたら聞いてみるか





Haru


今日は母親が一時退院で帰ってくる日だった


一番下の弟は朝から嬉しそう


そりゃそうだよな


まだ小学生だもんな





家に帰ると久しぶりに母親がいた


明らかに体調が悪そうだが


ハンバーグを大量に作っていた


うちではハンバーグはごちそうだった


誕生日とか何かお祝いごとじゃないと


食べられない





「ママ、今日はお祝いなの?」

 

「うん? 

 

特にお祝いすることはないけど


久しぶりにみんなで食べるご飯だからね」





「Haru、お帰り」


「あぁ


体調は大丈夫なのか?」

 

「今日は調子がいいよ」と


以前よりも痩せ細った手で


ひたすらハンバーグを作っている





「Haru、色々とごめんね


迷惑をかけて」


入院当初は不満だらけで

 

俺の人生どうしてくれるんだって


思ってたけど

 

今の母親を見たら何も言えない





「さぁできた、みんなで食べよう」  


久しぶりに家族で食卓を囲む


弟たちが久しぶりのごちそうにがっつく中 


「食べないのか?」 


「私?私はお腹いっぱいだから


気にしないで

 

いっぱい食べなさい」


「.....」





やっぱり体調良くないのか


あとで聞いてみるか





Rei


相変わらず高校生活は毎日


一人を貫いていた


もう傷つきたくなかったから


傷つくぐらいならはじめから一人を選ぶ





一人には慣れたけど


一番苦痛な時間がやってきた


そう、お昼休み


この長い休み時間に


教室で一人ぽつんと過ごすことは


未だに慣れない





でも昨日とっておきの場所を見つけた


屋上


ずっと鍵がかかってると思ってたんだけど


開いていた


お弁当を片手に避難部屋に駆け込む





教室とは違って開放的で最高


それに誰もいないし


「いただきます」と一人挨拶をして


今日もお手伝いさんが作ってくれた


手の込んだお弁当を食べる


お母さんは基本的に家事をしない


まぁ、そのためにお手伝いさんが


いるんだろうけど





ガチャ


えっ、誰か来た


そこには見慣れない男の人


「あれ、珍しいね、人がいるの」


「あっ、ごめんなさい私」


慌てて立ち上がろうとす ると


「あっ、いや別に俺 の場所じゃないから


俺もここでめし食ってもいい?」 


「はい、どうぞ」


学校で人とまともに話すのははじめてかも





「何年?」


「2年です」


「年下か、俺3年の河原」


河原?


あっ、学年一位の河原先輩だ


いつも廊下に張り出してあるから


学校では彼は有名人





「はい、知ってます


いつも学校の張り出しで名前見てました」


「あぁ、テストね」


「はい」





「大したことないよ」


「いえ、すごいです


私、苦手教科たくさんあるんで」


「そうなんだ、ちなみに何の教科?」


「科学と数学が特に苦手です」





「数式さえ覚えちゃえば簡単だよ


つか、お弁当すごい豪華だな」


「えっ、そうですか?


いつもこんな感じです」


「すげぇな、俺母親いないから


そんな弁当作ってもらったことない」





「良かったら食べます?」


「えっ、いいの?」


「少し食べちゃいましたけど」


「まじか、食べる、食べる


名前は?」


「私、泉です」





「泉さん、俺のパン食う?


ってこんな購買で買ったパンなんか


食べたくないか」




いつもお弁当のReiには


購買のパンが新鮮で魅力的だった


「食べたいです」


「あっ、そうだ


お弁当のお礼に勉強教えるよ」


「えっ、いいんですか」





Reila


いつの間にか


学校がつまらないものになっていた


お父さんが家にほとんどいない私にとって


学校は憩いの場だった





でも今は


放課後バレー部の部員たちの


練習してるかけ声が聞こえてくる度に


胸が痛い


足は一応は治っている


でも、もう激しい運動はできない





勉強にもいまいち身が入らず


成績もぱっとしない


今の私、何の取り柄もない





最近Miinaも全然連絡くれないし


もう忘れられてるのかな


はぁ


今日何度目のため息だろう


廊下を歩いていると





あっ、あの先輩


美術部の先輩だった


何度も私を勧誘してきた先輩が


油絵を描いていた





なんというか綺麗だった


絵のことはよく分からないけど


思わず見入ってしまう


すると先輩が気づいてこちらを振り返る


やばい、急ぎ足で歩く





「待って!良かったらのぞいてく?」


「えっ」


「どうせ私一人だし」


一人しかいないの?


「美術部は私一人なの


去年まで先輩いたんだけど


卒業しちゃったから


今ね、廃部の危機なの」





「廃部??


そうなんですね、絵、綺麗ですね」


「ありがとう、木島さんも描いたら?」


「私ですか?油絵描いたことないし....


絵は得意じゃないんです」





「上手い下手は関係ない


それに絵は見る人によって


評価は変わるわ


私の絵だって木島さんは


評価してくれたけど


評価をしない人だっている」





「描いてみてもいいですか?」


「うん!


木島さんの好きなように描いてみて」





久しぶりに充実した時間だった


気がついたら2時間もたっていた


こんなに無心になって


何かに集中したのはいつぶりだろう





「木島さん上手じゃない!」


「えっ、そうですか?」


「うん、うん、はじめてでこの色使い


才能あると思う


やっぱり入部しない?」


どうしよう、してみようかな


「はい、宜しくお願いします」





Rito宅


ガチャ


「ただいま」


帰ってきた


再婚してから家計に余裕が出たのか


以前より早く帰ってくるようになった





「いたの、ご飯は?」


「もう食べた


それより聞きたいことがあるんだけど」


「なにー?」


「俺、兄貴いるの?」


一瞬空気が凍りつく


えっ、何?





「それ誰から聞いたの?」


「えっ、兄貴から


今日、電話あった家に」


「要件はなんだったの?」


「いや、別に


ただ向こうも弟いるのか


確認したくて連絡してきた


俺、兄貴いるんだな」





「その子には会わないで」


明らかにイライラしていた


「どうした?」


「その子が原因で離婚したのよ」


えっ


「どういうこと?」





「その子はお母さんの子じゃない


お父さんが外で作った子だから」


つまり不倫してできた子なのか


「あなたには言うつもりなかった


今さら電話してきて何なの!」





「会う約束してないわよね?」


「あぁ、してないよ」


連絡先交換したことは黙っておくか


「じゃあ親父はその相手の人と.....」


「一緒には住んでない


だいぶ前に亡くなったから」





それ以上は聞けなかった


聞けない雰囲気だった




Haru宅


弟たちが寝静まってから


「治療はどうなんだ?」


「.....」





「あなたには嘘言っても仕方ないから


ほんとのこと話すけど


もうね、長くないの」


「えっ......」


嘘だろ


何言ってるんだ





「末期なのよ、全身に転移しちゃって.....


もう手の施しようがないのよ」


「嘘だろ」


「ほんとなの


だから最後に先生にお願いして


家に帰らせてもらったの


Haru、東京の高校に行くって言ってたのに


ごめんね、母さんのせいで


お金のことも」と言った瞬間泣き出した





もう何て言ったらいいのか


これが現実なのかも分からなかった


「Rikuたちのことだけど


もしもの時は母さんの妹と弟に


お願いすることにしたから


あんたは自分の人生を生きなさい」





「バラバラになるのか?」


「どちらかに任せると負担になるから」


「.....」





その夜、母さんが寝てから


兄貴に連絡した


兄貴には知らせてなかったから


俺に腹を立ててたし、すごく動揺していた






次の日の朝早く兄貴は東京から


すっ飛んできた


久しぶりに家族揃って過ごした

   




その3日後、母は亡くなった




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