第34話 進路

Rito 中学3年


空っぽのまま中学最高学年


進路を考える時期





進路どころじゃねぇ


高校とか正直どうでもいい


行って何になるんだ


かといって働く気にもなれない





俺はいつから


こんなにどうしようもない奴に


なってしまったんだ


どうしようもないって分かってても


どうすることもできない  


ここから抜け出せないんだ


あり地獄みたいに





先生と最後に会った日以来


何人か彼女を作ったりもした


でも本気になれなかった  





本気になれないから


浮気をして、また探して


誰と付き合ってもいつも俺の中に


先生がいる





最後の日もっと話しときゃ良かった


先生なら今の俺に


どんなアドバイスをするんだろうか


連絡先は知らないけど、自宅は知っている


  




Rei 中学3年生


小学校も浮いてしまっていて


1人だった


中学になってからは、いじめにあっていた


すっかり人間恐怖症になっていた





学校を休むと、母親に怒られるから


仕方なく今日も朝から保健室に直行


  



保健室の先生に


いじめの話をしたわけではないけど


いつも黙って受け入れてくれる  


それだけが救いだった





親に決められた学校に行くには


偏差値が足りない


今日から家庭教師が来ることになっていた


毎日が忙しかった、ゆとりがなかった


 




私は何のために生きているの?


特別missionどころではなかった


「泉さん、あとで体育館来て」






今日はじめて


先輩からの呼び出しを無視した






Haru 中学最高学年


俺はこんなド田舎で何をしてるんだ


俺の人生設計は狂ってしまった


弟たちの世話に毎日追われ


こんなはずじゃなかった





高校は俺も兄貴と一緒の


全寮制の高校にする予定だ


学費なんかないから奨学金で


先生からも俺の成績なら楽勝だって


言われている





母親には話していなかった


ようやくここを抜け出せる





そんな中、家の電話が鳴る


「もしもし、そうですが」


病院からの電話だった


仕事中に母親が倒れて


救急車で運ばれたらしい





嘘だろ


俺にこれ以上どうしろっていうんだよ


俺はもうすぐ東京に行くんだ





Reila 中学3年生


高校はスポーツ推薦で行けることが


ほぼ確定していた

 

別にプロになるとか


決めていたわけじゃないけど


成績はガタ落ちで


これしか選択肢はなかった





高校に行ってもバレーは続ける


スポーツ推薦で入るんだから


これからも成績は残していかなきゃいけない






学校内では


バレーのセンスがあると言われ


身長も172センチと


なかなか恵まれていた





でも試合に出て


他にも優秀な人はいくらでもいるってことに


気づかされた


上には上がいるんだって


最近は部活の時間以外も   


自主練をしていた、焦っていた


グキッ


痛っ





Rito


ここに来るのはいつ振りだろう


2年半振りか


気がついたら先生の自宅まで来ていた





昨日久しぶりに髪を黒くした


髪の色を変えたって


どうしようもない中身は変わらないが


せめて見た目だけでも






今ドアの前


こんなに緊張するのはいつ振りだろう


ドキドキしながらチャイムを鳴らす


ピンポーン





しばらくして「はい」


聞き慣れない声


「折原と申します」


「えっ、どちら様ですか?」


もしかして引っ越したんだろうか


「二ツ木さんのお宅ではないですか?」


「いえ、違います」


「そうですか、すみません


前に住んでた方がまだいらっしゃるかと


思いまして」


「私ずっとこの家に住んでますけど」






おそらく引っ越したのだろう


仕方なく家を後にする


最後の手段、小学校に向かう






先生の連絡先なんか教えてもらえないだろう


でも担任だったわけだから


可能性はゼロではない


もうこれしか手段はない





久しぶりの小学校


懐かしい


放課後ということもあり


子供たちはほとんどいない





職員室に寄る


トントン


ガラガラ


「おっ、折原じゃないか


お前久しぶりだな、元気にしてるか」


偶然にも体育の先生だった





「どうした、久しぶりに


顔出しに きたのか」


「まぁ.....


あの二ツ木先生っていらっしゃいますか?」


「二ツ木先生?


誰だ?そんな先生はいないぞ」


えっ、どういうことだ


学校変わったのか?





「学校変わったんですか?」


「変わったも何も


そんな名前の先生は昔からいないぞ」


えっ、何を言ってるんだ


訳がわからない





「えっ、俺の担任の....」


「何言ってるんだ


お前の担任は上原先生だろうが


お前大丈夫か?」


大丈夫じゃない


この状況が全く理解できない


どういうことだ、めまいがする






「いえ、大丈夫です」


「大丈夫か?」


「ちょっと教室のぞいてきます」





どうなってるんだ


先生どこ行ったんだよ


しかも先生の存在が消されている





その時に思い出す


そういえば、最後の別れの日も


先生、突然消えた





消える


存在そのものが消された


もしかして先生


俺と同じで上から降りてきてたんじゃ.....


何か目的があって


その目的を果たして


帰ったんだろうか





Rei


先輩の呼び出しを無視してから


さらにいじめはエスカレートした


睨まれるは当たり前


物が飛んでくるのも当たり前





この中学に入って2年半


先輩にいじめられていることもあり


同級生の子たちからも敬遠されていた

 

私と仲良くして


自分もターゲットにされるのが  


こわいからだと思う





そんな私も私なりに慣れた


周りと仲良くしようなんて気は


もうどこかに行ってしまった


そんな労力に時間を使うなら


違うことに時間を使うことにした





今は高校受験に向けてまっしぐら


受験勉強をするということで


習い事を減らしてもらった





バイオリンだけは続けていた


バイオリンを弾いてる時だけは


すべてを忘れられる


それにコンクールに出て賞をもらったり


それなりに結果は出ていた





この結果が


唯一私がこの世界に来て


自分の存在を認められた証


それ以外はほんとにうまくいっていない





家庭教師をつけて必死に勉強したかいもあり


ようやく


B判定が出る


A判定は合格と言われてるようなもの

 

あと少し





正直学校というものに対して


いい思い出はないのだが  


高校に行かないという選択肢は


はじめからなかった





家の方針で大学までは出ること


学校もRei に選択肢はなく


すべて親が決める


昔からReiが何かを決めたということは


ほとんどなかった


どんなことでも親に決められていた





だから自分で選択することがとても苦手


決められない


自分の意思がわからない

  

常に親はどう思うんだろうという思いが


頭の中にあるから





Haru


親が倒れて1か月


しかも癌だった


それと同時に入院生活がはじまる


母親が働けなくなることで


収入源もなくなった





父親の連絡先はわからない


兄貴に連絡しようかと思ったが

 

しなかった


兄貴には兄貴の人生があると思ったから





俺の人生は


俺の人生は





高校に奨学金で行けることが


決まっていた

 

こんな状況でどうやって


東京に行くっていうんだよ





母親の入院費用と生活費を考えたら


国からの手当だけじゃお金が足りない





仕方なく俺はバイトをすることにした

 

中学生ということではじめ断られたが   


訳を話して雇ってもらった


週4回コンビニでバイトをする


まさかこの俺がコンビニでバイトするなんて

 

思わなかった





「Haru元気か?」


「あぁ」


「母さんは?」


「今仕事行ってる」


「離婚して大変か?」


「まぁ、大丈夫だ」





「そっか、そういえばお前も来年


東京来るんだろ?


母さんに早く言えよ」


「あぁ、そのことだけど


俺、地元の高校に行くかも」


「えっ、どうしたんだよ


Haruあんなに東京来たがってたのに」


「気が変わったんだよ」


「大丈夫か?何かあったのか?」


「うるせぇな、何もねぇよ


忙しいから切る」





Reila


グキッ


痛っ


最近自主練をしすぎていた


結果を出さなきゃって必死だった

 

私にはバレーしかないから





あまりの痛さに

 

ダメだ


今日はもう帰るしかない


足を引きずりながら帰る

 




今までも怪我をしたことはあったけど


比べようにもならないぐらい痛い


家に帰ろうとしたけど


今回のはいつもとは違う


仕方なく、病院に行くことにした





検査を終え診断結果を聞きに行く


「親御さんは?」


「父しかいません、今海外出張中です」


「他に保護者のかわりの人は?」


「特にいません」


「うーん、仕方ないなぁ


ほんとは保護者の方の前で


説明しようと思ったんだけど


検査の結果


靭帯が切れてることが分かってね」




えっ


「私バレ ーやってるんです


来月大事な大会があるんです」


「それは無理だ」


「いつ復帰できるんですか?


来年スポーツ推薦で高校に入るんで


結果を残さなきゃいけないんです」





「よく聞いてね


おそらくバレーはもうできないと思う」


えっ......嘘でしょ


何言ってるの


じゃあスポーツ推薦はどうなっちゃうの


私にはバレーしかないのに

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