第9話日常 Rito

この世界に降りて来て早くも3か月


慣れたか慣れてないかと聞かれたら


慣れたと思う


学校はわりと楽しく通っている


家に帰ってきてからが苦痛だ





母親が毎日朝から晩まで


仕事をしているため


朝顔を合わせてから


次に顔を合わせるのが


次の日の朝というのがほとんどだった





学校から帰ってきてからの


毎日の日課は


まず、家のすべての鍵を閉めること


夜遅くなってくると怖いから


トイレもお風呂もドアを開けた状態でする


音がないのも不安で


帰ってきてから寝るギリギリまで


テレビは点けっぱなし


電気も点けっぱなし





何が一番怖いって


この家もともと


おばあちゃんの家だったらしく


とにかく古い


全体的にレトロ感たっぷりなこの家


この雰囲気がより恐怖感を増している





ミシミシ


階段を昇るたびになり響く


自分の部屋に行くためには


この階段を昇らなければいけない





今日の夕飯は作る時間がなかったらしく


スーパーのおつとめ品のお弁当


いつものように電子レンジで温める


恒例のドアを開けたままでのお風呂を済ませ


夜が来る前に急いで部屋に駆け込む





学校から帰ってきてから寝るまでの


この時間が一番苦痛だった


いつも孤独だった


毎日宿題が出されていたが


自分でやるには限界がある


分からない部分があると


そこで行き詰まってしまう





気がついたら少しずつ


授業についていけなくなっていた


学校で行われるテストの点にも


その結果が反映されている





はぁ


国語40点 算数45点 理解40点 社会39点





どれも似たり寄ったりな点数だな


はじめの頃は


全体的に90点代が当たり前だった


得意不得意もあまりなかった





放課後、家に帰るのが嫌で


教室で時間をつぶす


誰もいなくなった教室は


自宅と変わらずシーンとしていて


やっぱり孤独だった





ガラガラ


あっ、二ツ木先生だ


「折原くん、まだ帰らないの?


お家の人心配するから


そろそろ帰らないと


先生ももう帰るから、途中まで帰ろう」


「別に帰り遅くなっても


どうせ母親いないから


心配なんかされない」


「そっかぁ


折原くんちはお母さん1人だもんね


良かったら、今日先生の家で


ご飯食べない?」


「えっ」


「うん、そうしよう


お母さんには先生から言っとく」


「いいの?」


「うん、いいよ」





いいの?というのは形だけの返事で


俺の中で行かないという選択肢はなく


行く気満々だった


とにかく毎日孤独だった


でも疲れてる母親の顔を見ると


言えなかった





今日は寂しくない


明日からはまたいつもの生活だけど


今日だけでもしのげる


久しぶりに放課後ウキウキした気分になる





「折原くんは


学校ではみんなにモテモテなんだね」


「そうかな?」


「そうよ


折原くんがいると周りが明るくなる


そこが折原くんのいいとこだから


大切にしてね」


「うん」





「もうすぐ着くよ」


「近いんだね」


「この学校に突然来ることになったから


近くに引っ越したの」


「そうだったの?」


「先生ね、折原くんが来る.....


ううん何でもない」


ん?どういうこと?





「はい、到着


中に入って


今急いで夕飯の準備するから」


「お邪魔します」


先生の部屋は綺麗に整理整頓されてて


女の人の部屋って感じだった





「座って待ってて」


周りを見渡すと


さまざまな色彩で描かれた


綺麗な絵がたくさん並べられていた


景色というか、空間と表現したらいいのか


斬新な絵だった





「先生絵を描くの?」


「あぁ、それ?


そう、はじめは趣味だったんだけど


最近のめり込んじゃって」





確かにめちゃくちゃうまい


趣味にしておくにはもったいないぐらい


惹き込まれるものがある





「すごく上手だよ


この絵買いたいっていう人たくさんいるよ」


「フフフ


折原くん褒め上手ね


簡単なものだけどもうできるよ」


いい匂いが部屋中に漂っている





先生がご飯を持ってくる


豚の生姜焼きに豚汁に卵焼きにサラダ


こんなに美味しそうなご飯は久しぶり


母親は全く料理をしないわけではないが


いつも冷たくなってて


温めても出来たてにはやっぱり叶わない


最近は疲れてるのか


スーパーのお弁当が続いていた





久しぶりにテンションが上がる


「どうぞ召し上がれ」


生姜焼きを一口、口に運ぶと


「美味しい」


なぜか涙が溢れる





「大丈夫?


たまに先生の家おいで」


「いいの?」


「あんまり生徒を家に呼ぶのは


いけないんだけど、折原くんは特別ね」


その言葉が救いだった





「そうだ、最近授業難しい?」


ドキン


「......」


「折原くんは少し理解したら


何でもできる子よ


後で先生と勉強しよ」




先生のお陰で


低下していた学力もあっという間に復活





ふと思う


この学校のテストも


レベルに反映されるんだろうな


まんべんなくできたら


頭脳も精神も上がるのかな


今の数値がよく分からないから


どう頑張ったらいいのか



 


この世界に来て半年


学年最後のテスト


結果は


国語98点 算数99点 理解88点 社会100点


復活した


というより伸びた





あれから週に1度折原先生の家で


勉強を兼ねて


ご飯を食べに行っていた


先生の家に行ける水曜日が


唯一の楽しみだった


その1日があるから


残りの4日は頑張れた





全く孤独を感じないと言ったら


嘘になるけど


毎日孤独だった日々に比べれば





季節はもうすぐ春


4月から最高学年の6年になる


クラス替えは2年に1回だから


みんなとは同じクラスだったし


何より二ツ木先生とまた一緒なのが


嬉しかった





きっとこの気持ちは初恋なんだと思う


この世界に来て


はじめて人を好きになった

 

先生はこの世界の人なんだろう


はじめは3次元世界は大変だから


正直行きたくなかった


でも今は思う


降りてきて良かったと





いつぶりだろうか


久しぶりにmission mobileが鳴っている


見 ると


Kailからだった





Rito、元気にしてるか?


変わりはないか?


この通知を見て


改めて特別missionに参加していることを


思い出す





なんとかやってるよ


変わりないよ


毎日同じことを繰り返してるけど


これでいいのかな?






毎日全く一緒という日はないはずだ


この何気ない日々の繰り返しが


必ず花を咲かせるから



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