第2話
「まだ痛えよ、ちくしょう」
凪は鼻を擦りながら呟いた。
極めて失礼な質問を年頃の少女にぶつけた結果、彼の顔面は捻り込むように放たれた拳の直撃を受けた。
「Eカップとは……やっぱりデカかったな、アイツ」
全力で凪を殴った美樹だったが、涙目になりながらもなぜか、「Eカップだよ、バカッ!」と言って駆けていったのだ。
「おかげで目安になったからいいけど。にしても、店員さんの表情が凄いことになってたな」
学校から帰る途中、凪は女性用の衣服を購入しようとデパートに立ち寄った。婦人服売り場までは良かったのだが、流石に下着売り場では奇異な目で見られた。
一応、「姉に頼まれた」と伝えたものの、やはり半信半疑といった様子だった。そもそも学生服の少年に女性ものの下着を売るという行為に背徳感を覚えていたのかもしれない。
だが、凪がデバイスをかざせば、全ての決済は済んでしまうわけで。だから、必死の抵抗の一つとして、侮蔑の視線を送っていたのだろう。
などと好意的に解釈しようと努力してはみたものの、彼の中に残るいたたまれなさが軽減することはなかった。
「忘れよう。次からは自分で買わせればいいんだし」
恥ずかしさを紛らわせようと考え事をしていると、いつの間にか住処にたどり着いて射た。築五〇年は下らないだろうというアパートである。その一室こそ凪が住居。自室の前に立つと、すぐにポケットへと手を突っ込む。
ガチャリ。
凪が鍵を取り出したのとほぼ同時。内側から扉が開かれた。
隙間から覗き込んでいるのは、朱色の瞳。前のめりの体勢だからか、あるいは第三ボタンまで外れているせいか。凪が着せた男子学生用のシャツからは、まるで何かの果実のように豊満な胸元が……。
バタンッ!
「うにゃっ!!」
「あ、しまった」
凪は思わず、開きかけていた扉を押して閉めてしまった。おかげで、顔を近付けていた少女にぶつかってしまったらしい。
そっと扉を開けると、凪は中の様子を伺う。
そこには額を抑えながら、うずくまっている少女――フィリアがいた。
「すまん、ついうっかり」
「……大丈夫」
目に涙を浮かべているせいか、強がっているようにしか見えない。凪は取り敢えず部屋に入り、フィリアを連れて六畳間に行く。
「服、買ってきたぞ」
フィリアは差し出した紙袋に興味津々といった様子。
「その服は脱いで、こっちに着替えてくれ……って、ちょっと待て!」
「ん?」
首を傾げるフィリアだが、すでにシャツのボタンを外していた。あとほんのわずか、シャツがはだけてしまえば、隠されていた胸の尖りが見えてしまう。
サッと向きを変える凪。
「俺はトイレにいるから……着替え終わったらノックしろよ!」
そう言って、凪はトイレに入り、便座に腰掛けた。
――何でこんな面倒なことになっているのか。
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