魔王城で喫茶店をオープンしました【初恋の痛み編】 〜今頃、キスのお礼? 私が勇者だったら、今すぐ魔王を殺しに行けるのに〜
桜草 野和
短編小説
魔王城の中に、俺は喫茶店『最後の晩餐』を開いた。
理由は2つ。
1つ目の理由は、勇者のパーティに入りたいので、ここで待っていること。
俺は15歳の誕生日に貿易会社を経営する父から、“魔王と仲良くなって油断させるスキル”をプレゼントでもらった。
きっとこのスキルがあれば、勇者のパーティに入れてもらえる。そして、魔王討伐を成し遂げた勇者のパーティに息子が入っていれば、経営している貿易会社の業績も上がると、父は考えたのだろう。
もちろん、俺も勇者のパーティに入って、魔王を倒し、名声を手に入れてモテモテになりたいと考えていた。
2つ目の理由は、テナント料が、格安だったこと。
誰も魔王城で商売をしようしなかったので、魔王が最初はただ同然で、商売をさせてくれた。
ただ、売り上げが好調なので、魔王は賃貸料を少しずつ上げてきていた。
俺が“魔王と仲良くなって油断させるスキル”を持っていなかったら、もっととんでもない額を要求されていたことだろう。
カランッ、カランッ。
今日は定休日にしたのに、お客が入ってきた。
定休日のプレートは出していたのに。ちゃんとカギもかけておけばよかった。
魔王城はとてつもなく巨大で、最上階の魔王の間に行くまで上級の戦士たちでも、1週間はかかる。
しかも、いびつに入り組んでいるので、道に迷い、1ヶ月以上彷徨うパーティも少なくない。
魔王を倒して、名声と富を手に入れようと、連日十数組のパーティが訪れるので、魔王城は冒険者たちでそこそこ賑わっていた。
おかげで、喫茶店『最後の晩餐』は繁盛していて、ボリュームたっぷりの特製“豚カツピッツァ”と、眠気が一気に覚める苦味がクセになる“魔王コーヒー”を目当てに、冒険者たちが行列をつくることもしゅっちゅうだ。
あっ、“豚カツピッツァ”と言っても、実は豚肉は使っていない。何の肉を使っているかは、企業秘密だ。
そもそも危険だらけの魔王城で、店を開いているのだから、もし偽装がバレてもお客たちから肉が違うくらいで、クレームはこないだろう。
それに、ほとんどのお客は、魔王城から逃げ帰ることさえできずに、命を落とすことになる。
死人に口なしだ。
ほんの一部の生還者たちが、魔王城にある喫茶店『最後の晩餐』の特製“豚カツピッツァ”が、とんでもなくえげつないくらいに旨いと口コミを、街や村の掲示板に投稿してくれているようだった。
「私の顔に何かついていますか?」
「はい。眩しいくらいにキラキラ輝く金色の大きな目、キリッとした鼻、ホクロがセクシーな唇。耳はミルク色の素敵な髪の毛に隠れていて、よく見えません」
お客は髪をかきあげる。
「目も鼻も口も耳も、完璧な輪郭に完璧についています。つまり、あなたはじっーと見つめられても文句を言えない絶世の美女です」
「もう、いいでしょう。コーヒー淹れてよ」
「何よ、聞こえているでしょ。早く私にコーヒーを淹れてちょうだい」
「お客さん、最期の部分をもう一度」
「早く私にコーヒーを淹れてちょうだい」
「コーヒー、の部分抜きでもう一度」
「早く私に淹れてちょうだい」
「かしこまりました」
俺は絶世の美女のお客に、裏メニューの“普通のコーヒー”を淹れる。
「変なこと言わせて楽しいの? まさか、童貞のまま、こんなところで喫茶店のマスターをやっているの?」
「いえ、ここは案外、入れ食いスポットでして。相談に来た女剣士さんや、魔法使いさんたちと楽しむこともありつつ、マスターをやっております」
「ふーん。歳はいくつ? 私と同じくらいだから、19か20?」
「17です」
「ふーん。年下か」
「年下と、されたご経験は?」
「まだないわね」
「興味はございますか?」
「どうだろ。考えたことないわね」
俺は普通のコーヒーを、カウンターテーブルに置く。
「大丈夫ですよ。変な薬など入っていません。ごくごく普通のコーヒーです」
「あなた、お名前は?」
「タケルと申します」
「私はリリア。明日になったら、この名前は忘れてちょうだい。私もあなたのことを忘れるから。さっきの答えは嘘よ。年下の男とのアレには興味あったわ」
「かしこまりました。私でよろしければ、お役に立ちますよ」
「コーヒーを飲み終えてからでいいかしら? そっちのお楽しみタイムのほうは? このコーヒーカップが空になってからで」
「はい。お客さんのご自由に」
「せっかく、名前を教えたのだから、リリアって呼びなさいよ」
「かしこまりました。リリアさん」
リリアさんは、普通のコーヒーを、一口飲む。
「おいしい……染みるわ……」
「魔王、強かったですか?」
「そうね。……やりたがりのお猿さんの欲求より強かったわ」
「それは、勝ち目ないですね」
「なんか、ここに来るまで……いえ、今も生きている実感がないの。魔王に、殺された。そんな気分なの。ずっと」
俺は身を乗り出して、足元を覗く。
「大丈夫。足はちゃんとあるわよ。地にはついていないけど」
リリアさんはまたコーヒーを一口飲む。
「リリアさん」
「何?」
「今のうちに名前、無駄に呼ぼうと思いまして。明日には忘れないといけないですから」
「ここが、穴場のナンパスポットの理由がわかってきたわ」
「リリアさん」
「リリアさん」
「リリアさん」
「何よ? 名前を呼びたいだけなの? 本当に用事があるの?」
「おっぱいについた血、これで拭きますか?」
俺は、血がよく落ちる特注の布巾を差し出す。
「まだ、いいわ」
俺は布巾を、コーヒーカップの横に置く。
「ところで、この喫茶店の名前どうして変わったの? 前は『勇者様、とっておきのスキルを持つ俺をパーティに入れたら、楽勝で魔王を倒せますよ』だったわよね」
「よく覚えていましたね。さすが、魔法使いさん。呪文を覚えるより簡単ですか?」
リリアさんは膝の上に、魔法の杖を置いている。入り口に、魔法使い用の杖たてもあるし、隣の席も空いているのに、どこかに置こうとする様子は一切見られない。
むしろ、体から離したくないように見える。よほど、魔王が怖かったのだろう。
「勇者はいつ来るのかしら?」
「さあ。俺もずっと待っています」
「あれは勇者でないと倒せないわ」
「勇者なら、倒せちゃいますか?」
「そう願うしかないでしょ」
俺も、願おう。どうか、負けませんように。
リリアさんはまたコーヒーを飲もうするが、手を止める。
「ちょっと待ってください。今から、当店自慢の特製“豚カツピッツァ”をつくりますから」
空腹でコーヒーを飲んで、胃が痛くなる。そんなお客さんには、いつもこうしている。
「ごめんなさいね。定休日なのに、お料理まで」
「気にしないでください。まだ一人前分、肉が残っているから大丈夫ですよ」
今日は、材料の肉のストックがなくなったので、獲物を狩りに行く予定だった。まあ、明日を臨時定休日にすればいい。
この後、絶世の美女のリリアさんをハンティングできるのだから、ありがとうと俺がお礼を告げないといけない立場だ。ことが終わったら、ちゃんとお礼を告げよう。
「で、どうして、店名が『最後の晩餐』に変わっているわけ? 縁起悪いでしょ」
「ブラックジョークですよ。ここは、魔王城ですから」
「ふーん。適当な嘘は上手なのに、本気の嘘は下手なのね」
「はい、お待たせしました。特製“豚カツピッツァ”です。お好みで、ドラゴンの爪で、切ってお召し上がりください」
「これ、何のお肉を使っているのかしら?」
初めて見抜かれた。見抜かれるわけないと高を括っていたから、言い訳は用意していない。正直に応えようとすると、
「まあ、気にしないわ。いい匂いだし、お腹ぺこぺこだもの」
リリアさんは、特別にチーズの量を3倍増しにした特製豚カツピッツァを豪快に食べる。
「あのさ、タケルくん」
「はい、リリアさん。名前を呼ばれただけで興奮します。俺、自覚なかったですけど、変態みたいです」
「ああそう。それなら、余計に楽しめそうね。モグモグ。でも、こうやってがっついて食べている女を見ても、モグモグ、萎えないものなの?」
「そうやって俺も食べられたい。そんな想いで食べっぷりを見させていただいております」
「確かに変態ね。あと、わざとお水出してないでしょ。お水を、私に入れてちょうだい」
コーヒーを飲んでほしかったので、特別に水を出さなかったのに、バレてしまった。
あと文法を無視して、俺好みに「お水を、私に入れてちょうだい」と言ってくれた。
俺の耳にはリリアさんの、「私に入れてちょうだい」という、素敵なお言葉がまだ残っている。
俺はグラスに水を入れて、リリアさんに渡す。
「あっ」
「あ、ありがとう。ゴクッ、ゴクッ」
リリアさんと、指が触れて、お互いにちょっとだけ意識してしまう。
柔らかくて、冷たい指先だった。ちゃんと暖めてあげたい。
カランッ、カランッ。
3人の酔っ払いの冒険者が入ってきた。
脱落組だ。
魔王のあまりの強さに絶望し、魔王城に居座ってしまう戦士たちもいた。
この魔王城には、冒険者たちのいくつもの物語が転がっていた。
「臭っ!」
リリアさんは、杖をしっかり持って、3人の酔っ払いの戦士たちから離れる。
「おお、いい匂いがすると思ったら……。まずは、こっちからいただくとしよう。腹が減っては戦ができぬからな。イヒヒヒッ」
3人の酔っ払いの戦士たちは、リリアさんを舐めるように見ると、リリアさんに出した特製“豚カツピッツァ”と“普通のコーヒー”と“水”に、手をつけようとした。
「まだ、リリアさんが食べている途中でしょうが!」
「まだ、王女の私が食べている途中でしょうが!」
俺はカウンターテーブルの下に隠していた、異世界の銃“S&W M19”で、3人の酔っ払いの戦士たちを撃った。店で死なれても困るので、急所は外してやった。
リリアさんはリリアさんで、
「アリエルタルホミリシアン、ヌーダルバーグイーティー、バックジョートゥーズ、ゲキドラトツサリラー、ミチウォーマイノソウティーダダン!」
と呪文を唱えて、魔法をくらわせる。
?
3人の酔っ払いの戦士たちに、変化が見受けられない。
「ああー、臭かった。あなたたち、明日からはちゃんとお風呂に入って、歯磨きしておねんねしなさいよ」
リリアさんはそう言うと、席に戻る。
3人の酔っ払いの戦士たちから、石鹸のいい香りがしている。
使う魔法、間違っていないですか?
「お、おぼえてやがれ! 明日からも俺たちは風呂にも入らないし、歯も磨かねえからな!」
そう捨て台詞を残して、3人の酔っ払いの戦士たちは去って行った。
「作り直しましょう。血は入らないように撃ちましたけど、あいつらのツバとか、かかっているかもしれません」
俺は特製“豚カツピッツァ”と“普通のコーヒー”と“水”を下げようとする。
といってもリリアさんが口をつけたのだから、もはや“普通のコーヒー”ではなく、“魅惑の飲みかけコーヒー”であり、“水”もいわば“聖水”になっている。
「かまわないわ」
リリアさんは、俺の手を払いのける。
「こんなにおいしい料理をつくれるなんて、モグモグ、あっちのほうも期待しちゃうわね」
リリアさんは、そう言いながら、特製“豚カツピッツァ”をたいらげ、“聖水”を飲み干した!
「プハーッ! おいしかった!」
まだ半分以上残っているコーヒーには手をつけない。
「あのリリアさん、王女ってどういうことですか?」
「魔王にたった1時間で壊滅させられたエスカレッド王国を知っているでしょ」
俺は小さく頷く。エスカレッド王国は、世界一とも言われる騎士団と、難攻不落の城塞で守られた国だった。
そのエスカレッド王国が、ろくに応戦することもできずに、魔王に一方的に壊滅させられたことは、世界中の人々を震撼させた。
「国王のお父様も、王子の兄上たちも、魔王に一撃も与えられないまま殺されたわ。無抵抗のお母様も……」
リリアさんはコーヒーを一口飲み、喋りかけるが、コーヒーをもう一口飲んでから、話を続けた。
「婚約者だった騎士団長子息のラルトは、民を逃している時に、魔王に踏み潰されたと聞いたわ。誰にも、別れの言葉さえ言えなかった。一瞬のできごとだった。たった1時間前にはあった大切なものが、すべて消えていたの」
「復讐ですか」
「それもあるし、生き延びた王族の使命として、魔王を倒さないといけないと思った。だから、だから修行を重ねて、私と同じように生き延びた騎士団たちとパーティを組んで、この魔王城にやってきたのだけど……」
「勇敢な人ですね」
「結局、怖くなって、逃げてきたのに? 今も怖くてたまらないのに?」
「立ち向かう勇気と、撤退する勇気を、リリアさんが持っていてくれて良かった。ここで、マスターをしているとわかるんです。ああ、この人はここで死ぬ気だ。魔王に勝てないのを承知で、せめて一太刀浴びせるために来たのだと。俺はそういうのは嫌いです。っていうか、大嫌いです。1人でも多くの冒険者が、生きて戻ってきてほしいと思うのですが、なかなか……だから、ここに来たお客さんと2回会えることはまずないです」
「タケルの目にはきっと、冒険者たちの最後の幸せな顔が刻まれているのね」
「残念ながら」
ゴクッ。ゴクッ。リリアさんが、残っていたコーヒーを一気に飲み干す。
「ホンキヌハラ、カガシバワサキ、ナガグチトモ、オオイチタニ、ハセグチヤマコ、ワーハンネェドカリップ」
リリアさんは、呪文を唱えると、魔法の杖を隣の席に置いた。
「魔法でちゃんと歯みがきしたからね。で、どこでする? 私に生きているって実感させてよ。期待しているわよ、ナンパなマスターさん」
リリアさんは無理して笑う。
ポタッ。ポタッ。
空のコーヒーカップに、リリアさんの涙がこぼれ落ちる。
「その前に、ちょっとデートしませんか?」
「えっ、私、今、やる気まんまんなのに? やだっ、私ったら、テーブルも濡らしちゃった」
リリアさんの涙が止まらず、テーブルにもポタポタと落ち続けている。
「行きましょう」
「いったい、ここは?」
喫茶店『最後の晩餐』から、3時間ほど歩くと、建設中のモンスター園に着いた。
魔王城を歩くことになり、怯えているリリアさんとは、ずっと手を繋いで歩いて来た。
今も手は繋いでいる。
ただ、リリアさんは、建設中のモンスター園に来ると、怯えることを忘れていた。好奇心が勝っているようだ。
「冒険者たちの気分転換のために、舞台小屋とか、ポロ球技場とか、いろいろつくっているんです。そして、ここはモンスター園になります。冒険者と、冒険者に会いに来た家族が楽しめるように」
「この檻の中に、モンスターが入るわけ?」
「はい」
「大人しく入っているとは思えないけど」
「魔王が人間に手を出すなと命令しているから心配いりません。魔王にとっても、儲かる話なので。だから、本当は檻もいらないんですけど、人間たちが怖がってしまいますから、仕方なく。人間とモンスターが、少しでも近づけたら、なんてね」
「魔王と仲いいのね」
「悪くはないです」
リリアさんが、俺から手を離す。
「俺、初デートなんです」
「えっ? あっちの経験は豊富なのに?」
「そうなんですよ。すぐアレになってしまうので、デートしたことがなかったんです」
俺はリリアさんの手をとって、再び手を繋ぐ。指を絡めて。
「デート童貞卒業おめでとう。チュッ」
リリアさんが、記念にキスをしてくれる。
「ねえ、タケルくん、私をここで働かせてくれない?」
「ダメです」
「どうして? 私が働いたら、お客さん増えるわよ」
「はい。むしろ、リリアさん目当てで来るお客さんのほうが多くなりそうです」
「ならいいじゃない」
「だって、魔王城にいると、リリアさんまた魔王と戦いたくなってしまうから。というか、リリアさん、それが目的でしょ? 目が、さっきまでと違います」
「どう違うの?」
「ちょっと怖いです。リリアさんの中のモンスターが復活しています」
「私もモンスターか」
「魔王も、先代の勇者に両親を殺されています。まだ、子供の頃に」
「私の目からモンスター消えた?」
「いえ」
「そう簡単に消えるわけないか」
「ありがとうございます」
「今頃、キスのお礼? 私にキスされたい男はいっぱいいるんだから、感謝しなさいよ。まあ、後でもっとすごいことやってもらうけど」
「心の中のモンスターを、復讐心を消そうと試してくれて、ありがとうございます」
「見事に失敗したのよ」
「それでも、ありがとうございます」
「私が勇者だったら、今すぐ魔王を殺しにいけるのに」
「だから、リリアさんは勇者に向いていないんですよ。勇者はきっと、仕方なく魔王を倒しに来る気がします」
「そろそろ戻らない? アレの時間がなくなるわよ」
「何を言っているんですか、リリアさん。アレはもうできませんよ」
「どうして? 約束したじゃない」
「はい。コーヒーカップが空になったらと。あのコーヒーカップには、まだリリアさんの涙が入っています。そして、それは当分の間なくなりそうにありません」
「残念ね。私、タケルくんのこと好きになってきているのに」
「コーヒーカップに涙が入らないようになったら、また来てください。それまでに、うんと鍛えておきますから」
「出口まで、送ってよね」
「はい」
「タケルくん」
「はい。リリアさん」
「タケルくん」
「リリアさん」
「タケル」
「リリア」
俺とリリアさんは、何度も名前を呼び合いながら、魔王城の出口、いやリリアさんにとっての新しい入り口に向かって歩いた。
「私、エスカレッド王国を再建してみせるわ」
「ええー、そんなこと始めたら、俺に会いに来る暇がなくなってしまうじゃないですか」
「あと、タケルくん、手汗すごすぎね。これじゃ、デートする女子にひかれちゃうわよ」
「ごめんなさい。デートって、アレよりよっぽど緊張します。実はさっきから、沈黙が怖くて、会話が途切れないように頭フル回転させてます。もうすぐオーバーヒートしそうです」
「アハハハッ。タケルくん、ありがとう」
「今頃、特製“豚カツピッツァ”のチーズを3倍増しにしたお礼ですか?」
「私にすっごく大きいの入れてくれて。こんなの初めてよ」
ゴクッ。やっぱり、アレをやらせてもらおうかな。
「タケル」
「リリア」
「タケル」
「リリア」
「タケル」
「リリア、やっぱり、やってく?」
「ダンチ!」
「今の何?」
「24時間、アレが使えなくなる魔法」
なんで、よりによってその激ヤバの魔法の呪文は短いのですか。
「明日までは、私のことだけを想っていてね。浮気したら、許さないわよ」
っていうか、魔法かけられたから、もうできないでしょ。
「どう、初デートのご感想は?」
「女は怖い。特に美女は」
「あら、上出来じゃない。さすがは、私の1日彼氏」
リリアさんが、俺の頭をなでなでする。
すれ違う冒険者たちが、俺を羨ましそうに見ている。中には、殺意を感じる奴までいた。
俺が他の女冒険者のおっぱいに目を奪われたりすると、1日彼女のリリアさんは、俺の髪を引っ張って、
「こっちを見なさい」
と、自分のたわわなおっぱいに俺の顔を近づけた。
俺のバカーー!
このおっぱいを、リリアさんを、ああしてこうできたのにーー‼︎
「タケル」
「はい」
「喉乾いたから、コーヒーをもう一杯ごちそうしてくださる?」
「えっ?」
「今度は、キレイに飲み干してあげるから」
「でも、魔法が……」
「あれはね。本当は逆の効果をもたらす魔法なの。まあ、あとでよくわかるわよ」
「あ、あざーすっ‼︎」
「タケル」
「リリア」
「タケル」
「リリア」
「タケル、ちょっと手汗、マシになってきたわね」
「アレのことを考えたら、冷静になってきました」
「アハハハッ。変態ね。案外、好きかも」
「リリア」
「タケル」
「リリア」
「タケル」
俺とリリアさんは、しつこいくらい名前を呼び合った。恋っていいな。彼女っていいな。
そして、リリアさんの新しい入り口に行く前に、喫茶店『最後の晩餐』に寄って行くことにした。
結局、リリアさんとの約束は守れなかった。今でも、この初デートのことは忘れられない。
それに、リリアさんを新しい入り口まで送ってから、3時間後には、俺は落ち込んでいた女召喚士を慰めていた。
だって、浮気したら、リリアさんが怒って戻って来るかもしれないと思ったから。言い訳だけど、そう思ったのも事実だ。
リリアさんのおっぱいにはもう、血はついていない。
「タケル」
「リリア」
「好きだったわよ。永遠に」
「好きだったよ。永遠に」
魔王城で喫茶店をオープンしました【初恋の痛み編】 〜今頃、キスのお礼? 私が勇者だったら、今すぐ魔王を殺しに行けるのに〜 桜草 野和 @sakurasounowa
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