第5話ケンジとタカシ、バーテン編


「なぁタカシ。バイトしないか?」


「バイト?何のだいケンジ?」


「アツシの所のバーテンダーの仕事募集してんだって。一緒にやらないかタカシ?」


「いいね。やろうケンジ」




「というわけでよろしくお願いしますアツシ」


「まさかアツシが俺たちの指導員に選ばれるなんてね。嬉しいよアツシ」


「お前達がここに来た時点でこの店は終わりだろうがよろしく。最後の日を楽しもう」


「で?最初は何をすればいいんだアツシ」


「そうだな。簡単なカクテルから作ってみよう。まずはジントニックを作ってみてくれ」


「ジントニック?ケンジ知ってる?」


「分からん。とりあえずスピリタスを入れてみよう」


「残念ながらすでに不正解だ。スピリタスはアルコール度96%ある酒でうちではカクテルには使われないぞケンジ」


「そうなのか、残念。じゃあ他に作れそうなものはないかアツシ」


「ジントニックは諦めたのかケンジは。まぁその思い切りは嫌いじゃない。次はキティを作ってみてくれ」


「これならわかるよアツシ!ぬいぐるみを入れればいいんだね!」


「残念ながらタカシ、不正解だ。確かに彼女はキティだ。それもとびきりいい女だ。だが彼女をお酒に入れたら可哀想だ。正解は赤ワインにジンジャエールを混ぜるだけだ」


「おお!簡単だな!これなら俺たちにも作れそうだ!なぁタカシ!」


「そうだね!他には何作ればいいアツシ?」


「その自信は嫌いじゃない。テキーラサンライズなんてどうだ?よくお客様に注文される人気メニューだ」


「よし!まずはスピリタスを入れればいいんだなアツシ!?」


「それにサンライズって言うくらいだから梅干しとか入れたら日の出っぽくないケンジ?」


「二人の発想は悪くない。確かにサンライズ感は出ているがテキーラの部分を無視しすぎだ。正解はテキーラにオレンジジュース、グレナデンシロップだ」


「そっちかー!!そっちな気もしたんだよなー!なぁタカシ!」


「うん!二分の一の確率だったねケンジ!」


「そうか。惜しかったな。ならもう間違えないだろう。なら次は接客をしてもらおうか」


「あれ?もうカクテルはいいのアツシ?」


「ああ、カクテルはもういいだろう。テキトーに作ればお前達なら乗り越えられそうだ。兎に角お客様が来たらどうすればいいと思う?」


「服を脱ぐ!」


「服を脱がす?」


「ふむ。二人ともいい回答だ。だがどちらも犯罪だ。決してしないでくれ。お客様が来たら笑顔で「いらっしゃいませ」というんだ。礼に始まり礼に終わる。それがこの国の決まりだ」


「郷に入っては郷に従えというやつだな。了解だアツシ、服は脱がない」


「俺も分かった!服は脱がさない!」


「そうしてもらえると助かる。次はどうする?」


「服を脱ぐ!」


「服を脱がせる?」


「さっきの宣言はどこに行った?残念だが不正解だ。正解は席にご案内しておしぼりを渡すだ」


「だー!また二分の一が外れたなタカシ!」


「だね。二分の一の悪魔がいるねケンジ」


「そうか、二択だったのか。だったらもう次は平気だろう。次はどうする?」


「服を……いや、違うな。「お客様、こんな夜更けに夜遊びかい?」と尋ねる!」


「服を……、あ、違った。「あんた、火遊びが好きなんだな。ま、俺もだが」って言う!」


「二人が何を言っているのか分からないが不正解だ。正解はメニューを渡して注文を聞くだ。そしてドリンクを作って渡す。これで完璧だ」


「はぁー、なるほどなぁ。見事な流れだ。それならお店っぽいぞアツシ!」


「本当だね!アツシは何でも知ってるなぁ」


「よせやい。こんな事しか知らない童貞野郎さ俺は」


「何言ってんだ。童貞はみんな一緒だろアツシ」


「そうだよ!皆で一緒に卒業しようって、あの日誓ったじゃないか!」


「そうだったな。ありがとう二人とも。最後にお客様が食事を終えたらどうする?」


「服を脱ぐ」


「服を脱がす」


「どうしても脱ぎたいなら店長にばれないようになケンジ。だがお客様の服を脱がすのはだめだぞタカシ。」


「そっか。バーテンって色々大変なんだな」


「そうだね。気を付けることがいっぱいだ」


「普通は気を付けなくても平気なんだが……。まぁいい。じゃあ俺が客になってみるから二人は接客してみてくれ」


「「了解」」


「いらっしゃいませお客様。本日は寂しくお一人ですか?」


「一人だが一言余計だ。それとケンジ服を脱ぐといってもパンツは履いてくれ」


「パンツ一丁はいりまーす!!」


「タカシ俺はパンツじゃない。それに居酒屋じゃないんだから叫ばなくていい」


「お客様おしぼりをお持ちしました。その汚い顔をどうか頼むから拭いてください」


「ケンジは俺の事嫌いなのか?だがおしぼりは感謝する」


「ドリンクメニューをお持ちしました。何になさいますか?」


「おお、タカシいい感じだぞ。そうだな。お勧めとかありますか?」


「お勧めはスピリタスになります。というかそれしか知りません」


「おすすめはキティになります。可愛らしいいい女入りのカクテルです」


「そうか。ならその二つは却下だ。まずはマティーニをくれ。ステアじゃなくてシェイカーで頼む」


「かしこまりました。パンツはお脱ぎいたしますか?」


「ケンジ、パンツは履いててくれ」


「かしこまりました。お客様も服をお脱ぎになりますか?」


「タカシ俺は脱がないよ。ありがとう。とりあえず喉が渇いているんだ。酒を頼む」


「「かしこまりました」」



「おいタカシ、マティーニってなんだ?」


「わかんないよケンジ、習ってないもん」


「だよな。とりあえず使える酒を使ってみよう。まずはスピリタスだ」


「いい案だねケンジ。ならキティちゃんも入れよう」


「いいな。確かステアじゃなくてシェイカーって言ってたな」


「言ってたねケンジ。なら振ればいいのかな?」


「よし、任せろ。……。なんかキティちゃんがスピリタスを全部吸ったぞ?」


「ただのビショビショの美女が出来たね」


「だな。だがビショビショの美女ならタカシも喜ぶだろう。……。お待たせしました。マティーニです」


「どうしてこうなった?経緯が気になる所だが。これじゃあただのビショビショの美女じゃないか。嫌いじゃないがな」


「気に入っていただけて何よりです」


「お会計にしてくれ」


「かしこまりました。ビショビショの美女のオプション付きで15200円です」


「ビショビショの美女がその値段で頂けるなんてお得だな。また来る」


「「ありがとうございました」」


「ふむ。二人とも行けそうじゃないか。おっと、そろそろ開店時間だ。二人とも今みたいに頑張ってくれ」


「「了解」

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