第2話ケンジとタカシ、サプライズ編

 「いいか?まずはアツシが帰ってきたら部屋は真っ暗になっている。そして部屋に入ってきた瞬間ライトアップ!!俺たちがクラッカーを鳴らしてこう言うんだ。「アツシ!メリークリスマス」ってよ」


「……」


「ん?どうしたケンジ。そんな女子にいきなり殴られて「手が汚れた」って言われた時みたいな顔しやがって」


「それはお前だタカシ。本当に何したんだよお前は。そんな事よりいいのか?」


「本当に身に覚えがないんだよな。で、何がだ?」


「いや、なんかサプライズにしては普通過ぎないか?確かにご両親に頼んでこうして部屋の合鍵借りたまではいい。そしてサプライズも。でもクラッカーだけって普通過ぎないか?」


「確かにな。健司の言う通りかもしれない。ならどうする?いっそ入ってきたら部屋が火事になってたくくらいの事するか?」


「いや、確かにそれは驚くだろう。だが同時に悲しみもするだろう」


「だろうな。ならどうするよ?」


「んー。なんか華がないよな?男二人が部屋で待ってるって」


「でも俺達女友達なんかいないぜ?頑張って甥っ子のハナちゃんくらいしか思いつかないぞ?」


「おいハナちゃんはまだ一歳だろ?確かに部屋に帰ってきたら一歳の女の子がいたらサプライズにはなるだろうが、そのあと大変だぞ?一晩中面倒なんか見れるのかお前は」


「いや、無理だ。この前うんち投げつけられた」


「だろうな。お前うんちみたいな顔してるもんな」


「え?俺ってそんなに顔小麦色に日焼けしてる?」


「お前はポジティブなのか馬鹿なのかどっちだ?どんな返しだそれは。まぁいい。兎に角華だ!華が欲しい!!」


「って言ったってお前はどうなんだ?誰か女呼べるのか?」


「佐代子さんか清美さんなら呼べるぞ?」


「それはお前の母ちゃんとばあちゃんだろ。大体ばあちゃんはもう九十歳だろ?クラッカーの音でびっくりして心肺停止するんじゃないか?」


「まさにサプライズだな」


「命がけのサプライズだな。そしてそのあと葬儀だ。俺はごめんだぜそんなクリスマスは」


「よく考えたら俺も嫌だ。やめよう母ちゃんとばあちゃん呼ぶのは」


「だな。しかし困ったな。そう言われると確かに華がない。ならこれならどうだ?俺たちが女装するってのは」


「そのうんちみたいな顔でか?」


「え?俺そんな日焼けしてる?」


「ツッコめよ。冗談で言ってるんだから。なんでちょっと嬉しそうなんだお前は」


「あ、冗談か。そういや最近日サロ行ってないから肌が白くなってきたな。これが本当のホワイトクリスマスってか?」


「お前のユーモアセンスぶっ壊れてる事は分かった。しかし女装か。確かにありかもしれないな」


「どっかでズラとか買ってくるか?俺金ないけど。あと三十円」


「俺も金ない。あと五十円」


「負けたー!?嘘だろ!?二十円差!?でかいわー。その差は誠にでかいわー」


「そこでテンション上げるな。夜はまだまだこれからだ。体力持たないぞ?」


「確かに。お前の言う通りだ。ありがとう」


「いや、いいんだ。しかし女装がないとするとどうするか。もう俺はお手上げだ」


「ならこんなのはどうだ?手作りケーキとか作るとか」


「おお、いいなそれ!で?ケーキってどう作るんだ?」


「え?知らないよ。なんかタバスコとか入ってなかった?」


「お前は家族にまで虐められてるのか?相談くらいはのるぞ?」


「ありがとう。でも大丈夫。うちの家族仲いいから」


「ならいいんだ。ケーキにタバスコ入れられるくらいだから家庭内暴力とかにあってるかと心配したよ」


「お前はいい奴だな。でもそんなことないよ?ちょっと親の機嫌が悪い時にビールの空き瓶で殴られるくらいだ」


「それを家庭内暴力というんだ。何故今まで気づかなかった?」


「え?そうなの?でもあれ上手く瓶が割れるとそんなに痛くないんだよ?」


「テクニシャンだな。そんな逃げ道があったのか。それなら心配しなくても平気か?」


「うん。大丈夫。それよりもサプライズだ。タコライスとかサンライズでも作るか?」


「何故韻をふんだ?タコライスは作れないしサンライズって「日の出」って意味だろ?作ったとしたら俺達ノーベル賞ものだぞ?」


「ノーベル賞とったらまさにサプライズになるな!」


「この短時間でノーベル賞はとれない。残念だが諦めよう」


「んー。どうするか。真面目に考えないともう時間ないぞ?」


「よし!ならできることを全部しよう!!思いつく限りのサプライズをするんだ!」


「なるほど。確かにサプライズは沢山あった方がいい。とりあえず服脱ぐか?」


「いいね。帰ってきて友達が自分の家で裸になっていたらサプライズだな!なら部屋の家具が荒らされてたらどうだ?」


「いいね!帰ってきてテーブルがひっくり返ってたらアツシもひっくり返りそうだ!」


「あとあと、窓が割れてるとか!」


「あーいい!すごくいい!窓が割れてたらアツシの心も砕けるだろう!」


「あとは、えーと、うーんと。あ!冷蔵庫にあったビールを風呂に全部入れるか!」


「お前は天才か!ビール風呂になったらケンジの疲れもしゅわしゅわと消えていくはずだ!」


「だろうだろう?あとは部屋でうんちするとか!?」


「それはやめとけ。落ちているのがうんちなのかお前の顔なのか分からなくなる」


「え?俺そんなに日焼けしてる?」


「他には案はないか?」


「んーそうだなぁ。あとは部屋中にソファーの中に入ってる綿をまき散らそう」


「いいね。部屋中が綿で真っ白になってアツシの顔も真っ白になるだろう。まさにクリスマスに相応しいサプライズだ」


「よし、こんなものでしょ。早速取り掛かろう」


「おう!!」


「「……」」


「どうだ?出来たか?」


「いい感じ。部屋中めちゃくちゃだ!」


「窓割ったから少し部屋が寒いがクリスマスなんてこんなものだろう。あとはアツシを待つだけだ!」


「あ!部屋の電気消さなきゃ!……よし。これでいい」


「お?帰ってきたぞ。静かにな。ばれないように」


「ドアを開けたらクラッカーだからね。タイミング合わせてね」


「ああ。任せろ」


「「メリークリスマス!!」」

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