テトラ再び 001
ニューマウナケアシティの西端に小さな湖がある。
観光地としては全然人気が無くって、そろそろ埋め立てた方がいいんじゃないって言う土地開発事業の会社と、自然環境のためには必要なんだって言う大学教授の論争にたまに登場する程度。
つまり、何にもないってこと。
その湖畔に<カーリー・イン>の離れがあった。
見た目は二階建ての小さなログハウスタイプのコテージ。
古代地球風のやつをアップグレードした感じかな。
ホバーカーは、念のためログハウスから少し離れた森の中に停めた。
ネハおばちゃんの知り合いっていう怪しげな解体業者が引き取って行くことになってる。
本当ならレンタルホバーカーは道を外れると通報されちゃうんだけど、警報システムは乗るときにそもそも攪乱してあるから問題ない。
ホバーカーを降りて歩いて行く道すがら、静かに吹く夜風が気持ちよかった。
虫の声が響いていて、もうすぐ夏とそう代わり映えのしない秋がやってくることを教えてくれる。
夜明けまであと数時間。
ここにはニューマウナケアシティの賑やかな光が届かない。
逃げ隠れするにはとても良いところだ。
くあ、とキティーが欠伸する。
ただ体を伸ばすだけの運動のセクシーなこと。
殿下の顔は、もうほとんど腫れ上がった部分もなく綺麗に治癒していた。
青あざと裂傷を取り払った殿下の顔は、なんだか、あたしが言っちゃいけないんだけど一皮むけた、みたいな感じ。
離れのコテージの玄関は綺麗に掃き清められていた。
お客さんが居なくても、毎日ネハおばちゃんは掃除をするのだろう。
そういう人だ。
あたしが鍵を開けようとすると、
「待て」
キティーが言って、あちこちを調べ始める。
「開けたとたんにドカンは嫌だろ。スラムにはそういう奴が沢山いたから」
「そんなことって」
「いるんだよ。ヘンタイは山ほど。もらったジュースの蓋を開けたら爆発して顔が吹っ飛んだ子供を何人か見た」
ようやくキティーがオッケーを出したので、あたしは電子的な部分を走査してから解錠した。
部屋がふたつあったから、広い方に殿下とキティー、狭い方にあたしが入ることに決める。
内装はオールドアメリカンスタイルになっていた。
わざと色あせた感じにしてあるヴィンテージ調の家具と、薔薇の飾られた花瓶、ふかふかの絨毯、ベッドには真っ白でパリッとしたシーツ。
お湯も出るし洗濯機も使えるってことで、まずは殿下にお風呂を使っていただく。
その間に洗濯機で各々の服を洗う。
洗濯機はヴィンテージを装った最新式だから、洗濯から乾燥まで十分あれば問題ない。
男性陣が回した後にあたしが使わせてもらえばいい。
いざという時に衣装が必要なのはふたりの方で、あたしは適当でも大丈夫だから。
個室に入るとどっと疲れが押し寄せてきたけどまだ寝るわけにはいかなかった。
まずはコテージの防御体制の確保が必要でしょ。
玄関先で走査したときから、このコテージが見た目通りじゃないってことは分かってた。
いずれ来る日の為に、ネハおばちゃんとテトラたちは用意してくれてたんだろうね。
コテージを中心として一キロ圏内の熱源を探知するセンサー。
攻撃システムつきのドローンが湖の中に隠されている。
素朴でクラシックなログハウス風の外壁には要人警護施設なみの破壊耐性が備わってた。
あとは
調べてみると、こちらの位置を悟られないよう撹乱させながら通信が出来るめちゃくちゃ高度なシステムを持ってる――恐らくは違法スレスレな――やつだと分かった。
これで、こわごわ
あとコテージ全体と各部屋を防音にする機能もあった。
地下には耐爆能力のある隠し部屋、そこと満タンになった食料貯蔵庫が繋がっている。
まるで小型要塞みたい。
あたしは部屋に置かれていたデータパッドを引き寄せると、オフラインモードにして起動。
キューブの読み取りを開始する。
思っていたより高密度なキューブで、廉価版のデータパッドは時々音を上げそうになっていたけど騙し騙し全部のデータを展開させた。
立ち上がったデータはあたしたち<日本語解放戦線>のロゴを映し出し、それから、
「テトラ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます