花火

8月4日土曜日・

広日記『私は早く通信機器を使いたくて、昼食後の検温を済ましたあとに、すぐ入浴が出来るようにお風呂の予約を取った。そして12時45分入浴』

広日記『13時10分隔離室に戻る。そしてナースステーションに行きナースさんから通信機器を受け取った。』

広は作ってあるSNSの全アカウントのフォローとフォロワーを確認して、減っていない事に安堵した。そして早速家族の確認の無いところで、広はSNSにいくつか投稿をして満足をした。当然病院の事、入院している事は、広は退院まで伏せて投稿していた。

広日記『15時30分波姉面会に来る』

波音「今日も暑いよ。あといつもの緑茶3本ね。それとお菓子。もう入院も8月に入ったね。早く退院出来ると良いんだけど。それと聞いたよ。隔離の時間が無くなって解除されたんだってね。あとは通信機器も使えるようになったし、誰かの付き添いがあれば病棟の外に出て、病院の中を自由に動けるんだってね。保健師さんとも話ししたみたいだし、この一週間は色々あって良かったね!」

広「うん。良かった。でも通信機器の使用ルールにSNSに投稿する時は、家族の内容確認が必要なんだよ。それと病院のことは書いて投稿していないけど、病院のことも投稿するのはダメなんだ。それでもさっき、誰も居ない時に当たり障りのないけど、SNSに投稿しちゃった。だから念の為に確認して欲しい」

広はSNSに投稿した内容の画面を波音に見せた。

波音「うん。悪くないと思うよ。日常を切り取った感じの投稿で全然平気だと思う」

広「そう?なら良かった」

波音「少し休憩したいから休憩したら、病棟の外に出て病院の中歩こうか。7階だったっけな屋上庭園があるから、そこで広にもこの暑さを感じて欲しい」

広「この前海里にも似たようなこと言われて外に出されたよ」

波音「ハハッそうなんだ」

広日記『16時30分通信機器を持って、病棟を出て7階の屋上庭園に行き、また私は夏を感じた。』


広日記『16時50分病棟に戻り隔離室に戻った。』

波音「暑かったね。すぐ戻って正解だったよ」

広「もう少し居ても良かったけど夕食がそろそろ来ると思うからね」

広日記『17時30分夕食が届いたアナウンス。白米、鶏のねぎ塩焼き、若竹煮、イモ、お茶。』

広日記『17時50分夕食完食』

波音「通信機器をいじってどうしたの?」

広「今日最後にSNSに投稿したい」

波音「もう今日は良いよ。また明日にしな」

広「でもしたい」

波音「どうせパッと投稿内容思いつかないでしょうに」

広「うん。まあ確かに」

波音「先にもうナースステーションに預けて来なよ」

広「18時までまだ残り時間がある。それにナースさんが時間になったら回収に来るもん」

波音「自らの行動が使用出来る時間の制限を伸ばす一歩だよ。それになんだかんだ18時になったよ。預けに行っておいで。我が子ように思っているだろうけど、いつまでも親が子に、くっついていたら子から嫌われるよ。離れなきゃいけない時があるんだよ。ほらだから預けに行きな」

広「分かった。我が子を預けに行って来るわ」

波音「広が通信機器を預け終わったらお姉は帰るね」

広「分かった」

広日記『18時13分夕食後の薬を配るアナウンス』

広日記『18時20分ナースステーションに通信機器を預けた。ナースさんが回収に来なかったので、波姉に言われて渋々と預けた。そうするとナースさんは時間が過ぎていることに気づく。それで波姉もナースさんも「自らの行動が使用出来る時間の制限を伸ばす一歩だよ」と言った。』

広「我が子を預けた」

波音「よくやった」

広「そう言えば今日は花火大会があって花火打ち上る日だよ。見なくて良いの?」

波音「実は友達と飲みに行くんだ。だから花火は見ておくんだよ。じゃあね」

広日記『18時25分波姉帰宅手を振り見送り別れた。ハグなどが無く少し寂しかったが今日は花火が見られる。楽しみだ。』

19時過ぎ・19時には花火が打ち上ると聞いていた広だが、なかなか花火が打ち上らずに、広や他の患者はまだかまだかと、待ち望んでいた。すると少し遅れて花火は病棟にある大きな窓から打ち上るのが見え、患者達は歓声を上げた。他の患者と花火を見るという行為を介して広は、他の患者と色んな会話が出来、コミュニケーションが取れた。広はお年寄りの患者との会話で、このような会話を交わした。

広「去年もこの時期に入院して花火を見たんです」

お年寄りの患者「そうですか。また同じような経験をされるとは」

広「ですよね。また同じ経験をするとは思いもしませんでした。しかも平成最後に」

お年寄りの患者「そうですね。最後ね。まだお若いですし次が無いと良いですね」

広「ですね」

お年寄りの患者「去年の花火と比べて今年の花火の見栄えはどうですか?」

広「覚えて無いですよ」

お年寄りの患者「そうですね。嫌な記憶は忘れた方が良いです。覚えてなくて良い」

その言葉は広にもお年寄りの患者本人にも、お年寄りの患者本人が言っているようだった。

その会話を広は花火を、見終わってから日記に書き記した。

広日記『そうしてお年寄りの患者のとの会話もした。しばらくすると次第に花火を見る患者も減って行き、しばらくしてそのお年寄りの患者も自分の病室に戻って行った。最後は私一人になった。去年は隔離にまだ時間制限があった為、花火の途中で隔離室に戻された。だからせめて今年は最後まで花火を見たかった。花火を打ち上げる由来は魂を鎮める意味が込められているらしい。7月15日に見たあの少女の夢の「自分の魂を殺してしまった」と言うのは、死んでしまった私の魂が今日の花火で鎮まったのだろうか。最後に打ち上った大きな打ち上げ花火はきっと、自ら殺した一人の心と、私の魂を安らかに眠らせたのだろう。私はそう思いたい。』

広日記『20時になり花火が打ち上る気配もなくなり隔離室に戻る。そして日記を書いた。』

広日記『20時30分寝る前の薬を配るアナウンス』

広日記『21時15分消灯の為明かり消される』こうして花火鑑賞の日は終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る