夜明け

『6月28日木曜日2時20分目が覚めた。何も無い風景、殺風景で自分の部屋ではないという現実を押し付けられる。まだ夜中だが起きてしまった以上眠れない。朝をこうして気持ちなどを紙に書いて待つとしよう。この病院での精神科の1212号室の隔離室は二度目だ。今回は身体拘束は無い。しかし閉ざされた空間に居る。その閉ざされた空間に居るということは刑務所の牢屋の中に居るのと変わらない。私は当然それほどの物騒で過激な投稿をして、その投稿の内容を見た人や噂として耳にした人や地元地域の人に多大な迷惑と不安や恐怖を与えたに違いない。その人達に向けて早く心より深くお詫びと謝罪をしたい。何故母親は謝罪文を投稿させてくれなかったのだろう。私の殺害予告が拡散されていれば謝罪文の投稿も拡散させるべきだろうと思う。そうやって28日までの出来事を書いていたら4時になった。』

広は何枚もの紙に殺害予告をした25日から目覚めた28日のその時までをヒマ潰しのように書いた。そして広は続けて書いた。『ナースさんとも話しもしたいが薬を飲まされて終わりだろう。いつも夜中に目覚めた時はSNSをしたりして僅かながら人と繋がっている気がした。だけど今はSNSをしていなかった中学生程の学生時代に戻ったようだ。こうして今は紙に思いを綴り文字だけが増えて行く。孤独感を紛らわしたいのかも知れない。話し相手はインターネットの向こう側の不特定多数の人間ではなく紙になり寂しく思う。しかし連日フォロワーが激減した理由は分からず、私の投稿内容も差し当たって変わったことはしてなかった。不思議としか言い難く理解出来ない。5時になった。1212号室の隔離室の窓から見える空も暗闇の夜空から淡い青へ次第に朝焼けの空模様になっている。この夜明けの空が私の人生の終わりを告げているのか新たな私の人生を告げているのか、まだこの時は分からなかった。なんてね。』とひとまず3時間程紙と向き合っていた広は書き疲れもあったがしばらく頭の中で考え、まとめてまた紙に思いを書き始めた。『5時23分やはり考えてしまう通信機器の使用の禁止で私のSNS上やインターネット上での立場を。私がどう批判されているのかを知り得ることの出来ない現状はとても不安で落ち着かない。それにSNSで繋がりのある人の中で、ある程度しか繋がりの無い人から深い繋がりのある人とのフォローの状態確認も出来ない。それとその人達と連絡が取れないのも気持ちを不安定にする要素だ。入院中の担当医成田先生や母親は私がSNSに依存していると考えている様子が言葉などから受け取れるが、私は今の時代SNSは活用して当然だと思うし、私はそれほど1日中投稿している訳でもなくて、私程ならば依存していると言うにはあり得ない程だ。それに成田先生や母親のSNS慣れせず生活しているままで良いという考えの方が、大げさに言えば異端な考え方だ。あらゆる企業も情報発信のツールとして使用している。だとしたら企業含め私のように個人で個人の情報発信している人が全員SNSに依存しているといえてしまう。成田先生や母親の考えは今の時代そぐわない。』広はもう1枚の紙に文章を書き始めた。これが最初の日記だ。『6時5分窓から太陽の明かりが入り込み朝と感じられるほど空は青い。この朝までの出来事と母と成田先生の考えへの不満を多少なりとも文章に書き留めたくなり書けたし良かったと言えるだろう。しかしこの入院と通信の禁止は私の行き過ぎた発信が原因だ。それは私が反省しなければならないし、悔い改めなければならないんだ。2時20分から6時20分になるまで色々書いた。朝食まで一旦休むとしよう。』広はシャーペンを置き、休む為寝転んだ。

ナースコールのアナウンス「朝食が届きました準備の済まれた方は食堂前にお集り下さい」アナウンスを聞いた広は隔離室から自力で出る事も食事を取りに行けない事も分かっているので、日記を書いた。『7時精神科病棟に朝食が届いたアナウンスが流れる』

5分待ち広の病室にも食事が運び込まれた。ナース「菊川さんおはようございます朝ご飯持って来ましたよ」

広「うん」

ナース「なに書いているんですか?」広「日記みたいな物」

ナース「そう、じゃあなにかあったらナースコール押してね」

広「うん」その後広は朝食を食べる前に日記を書いた『7時5分朝食が私の居る1212号室の隔離室に運び込まれるも6月27日に書き上げた謝罪文を投稿したい思いもあり食欲が涌かない。朝食メニューはパン、ゆで卵、サラダ、バナナ、牛乳、お茶なぜか空腹でもないし食べるのに悩む。謝罪の投稿も普通にSNSも出来ない状況があらゆる意欲を欠く。本当に通信を禁止して1212号室に隔離することが治療になるのだろうか?逆効果なのでは?とにかく退院までの辛抱だ。』そうこう書いている内にナースコールアナウンス「これからお薬を配ります。食事が済まれ準備の出来た方はナースステーション前にお並び下さい」とアナウンス。広は日記に『7時50分朝食後の薬を配るアナウンスが流れた。私は朝食についていたお茶だけを口にして飲んだ。私は薬を配るアナウンスが流れるまで謝罪文を投稿した際にどのような反応がフォロー内外から来るのだろうか、そして反応を示して来たアカウントにどう対応するべきか考えていた。一つのアカウントごとにメッセージでやり取りして対応するか、メッセージで寄せられた内容に対してまとめて一つの投稿で返答するかのどちらかに絞った。』また日記を書いている内に隔離室の重い扉が開きナースが朝食を片付けに来た。

ナース「片付けに来ましたよ。あれ?なにも食べて無いじゃないですか」

広「片付けちゃっていいよ」

ナース「分かりました」

広は日記に『手付かずの朝食をナースさんに片付けてもらった』と書いた。そして広は昨日の海里の言葉を思い出し、隔離室を出ようとしていたナースを呼び止めた。「あのお風呂入りたいんでお風呂の時間取ってもらえますか」

ナース「いいですよ。お風呂の予約時間取っておきますね」そうしてナースは食器を持って隔離室を出て行った。

昼過ぎ13時10分頃、広は昼寝から目覚め日記を書いた。『10時10分ナースさんに連れられて浴室でシャワーだけだが浴びて入浴した。その後1212号室の隔離室に戻る際、ナースさんに「サッパリした?」と聞かれたので「うん」と返事した。そして隔離室に戻った後、入浴で今までの疲れが取れたのか軽く意識はあったものの眠くなり夢を見ていた。起きているのか寝ているのか分からない中で昼食が運び込まれるのが分かった。そしてナースさんに起こされるも無視して狸寝入り。しばらくして昼食が片付けられるのも分かり、とうに昼は過ぎたのもそれで分かった。』と。広はまだどこかで緊張が解かれぬままだが、ひと時の眠りという安らぎに浸った。

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