1-5

「よし、こんなもんでどうかしら」


 模擬戦の組み合わせ発表から一日経って、俺は朝早くから従器調整室に出向いていた。


 校内における従器管理職員の一人、俺の従器の担当でもあるメル・ロータスさんから従器を受けとり、軽く状態の確認をする。


 従器は近接戦闘用の兵器でありながら、精密機械とそれを動かすバッテリーをも内蔵している。ゆえに、調整には専門の技術が必要であり、リニアス高等学園内にも複数の管理職員が配置されていた。


「フレクトくんの調整は、癖が無くて助かるわ。この時期は特に忙しいし」


 ロータスさんの呟きを聞きながら、従器を刀、槍、斧、あるいは球体や三角形など様々な形に変形させていく。


「ああ、だからって、手を抜いたりとかしてないから、安心してね」


 慌てたように取り繕う声も聞き流し、今度は棒状にした従器を縦横、斜めや円を描くようにと機動させる。


「ありがとうございます、完璧です」


「そう? そう言ってもらえると、私としては嬉しいけど」


 最後に硬化と強化、増大を軽く試し、従器を待機状態に戻す。


 現在、従器には、大きく分けて五つの機能があるとされている。


 変形、機動、増大、硬化、強化。


 基本的には文字通りで、変形は従器の形を変える機能、機動は外からの力に依らず従器自体が運動する機能、増大は一時的に従器の質量を増加させ、硬化は硬度を上げる、もしくは下げる。強化は少し特殊で、脳波や電気信号を通して、従器を扱う者の身体能力を上げる機能という事になる。


「模擬戦、明日だったわよね。学校の職員がこんな事言うのはダメかもしれないけど、私はフレクトくんを応援してるから」


「まぁ、ロータスさんはヒースの担当では無いですしね」


「た、担当の子みんなに言ってるわけじゃないのよ」


 慌てて腕を振るロータスさんに頭を下げ、調整室を出る。


「あっ……シモン」


「アリス、か」


 しかし、ちょうど扉を開けたところで、見知った少女の顔が目に飛び込んできた。


「盗み聞きとは趣味の悪い」


「弱者は勝つためなら手段を選ばないのだ」


 俺の批判をものともせず、アリス・トレドは鼠のようにそそくさと調整室に入ると、中から鍵を掛けてしまった。


「弱者、ねぇ」


 アリスは暫定順位十三位の、学年でも上位の実力者だ。すぐにではないだろうが、更に上位である俺との模擬戦を今から見据えているのだろうか。


「あいつは……」


 少しばかり言いかけた言葉は、寸前で止めた。

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