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「なぁなぁ、もし俺がチャイに負けたらさぁ、かなり恥ずかしくない?」
食堂での夕食の最中、そう口にしたのは暫定順位七位のクライフ・クライムだった。目に掛かりそうな長さの前髪を、なぜかいつも真っ赤なピンで止めている。
「別に、いずれ半分以上はチャイなりノヴァなり、後はアリスとかにも負けるだろ」
「それでも、だよ! 俺なんか順番早いから、負けたら目立つじゃん!」
「まぁ、それもそうだよなぁ」
クライフの叫びに、パトリックも同調するように頷く。俺もパトリックもクライフとはクラスが違うが、寮生活という環境に加え、クラスとは別に暫定順位ごとに別れた授業もあるため、特に順位の近い者同士は接する機会も多い。俺とパトリック、クライフはその中でも特に良くつるむ三人で、普段から夕食を共に取る仲でもある。
「ちなみに、シモンは俺とチャイのどっちに賭けた?」
「チャイだな」
「マジかよ、この薄情者!」
「仕方ない、あれは倍率が違いすぎる」
正直なところ、チャイとクライフが戦った時、どちらが勝つか俺にはわからない。ただ逆に言えば、あくまでその程度の実力差に見えるという事で、それでいて倍率が何倍も違えばチャイに賭けるのはごく妥当だろう。
「心配しなくても、お前より先にカーマがノヴァに負けるだろ」
「俺も負ける前提で話すのやめてくんない?」
「やっぱり、そこの対戦は自信があるんだな」
「まぁ、な。ノヴァはかなり強いだろ。なんかそんな気がする」
「自信があるんだか、適当なんだかわかんねぇ」
雑談を交わしながら食事を進めていると、俺の鼻のすぐ先を魚の骨が飛んでいった。
「おいおいおい、今、俺に喧嘩売ったよな? シモン」
「むしろ、喧嘩売ったのはお前の方だろ」
骨の飛んできた方、ではなく骨の落ちた場所を見ると、小柄な少年が骨を拾って手元で持て余している姿が目に入る。
「いーや、お前が先に喧嘩を売った。よりにもよって、俺がノヴァに負けるって言った」
「内輪話にケチを付けるな」
「いいか、俺は女なんかには負けない。そしたら、次はお前だ。そんで、最後にヒースを倒して俺が一番になる!」
俺の苦情を無視し、堂々と宣言するのは、暫定順位三位のカーマ・ロットン。小柄な体格ながら、身体能力が高く、ここまで学年三位の成績を収めてはいるのだが。
「その順番的に言えば、俺はヒースに負けるって事だよな? つまり、お前は俺に喧嘩を売ったわけだ」
「? 何言ってんだ、喧嘩を売ったのはお前だろ」
ただ、カーマは若干頭の回転が遅い。だから、今もこうして会話が成立しないわけで。
「たしかに、カーマは実戦形式でやるには少し馬鹿過ぎるかもなぁ」
「おい、パトリック、今俺に喧嘩売ったな?」
「うん、これはカーマに期待しよう」
「お、クライフは俺の味方か。よし、一緒にこいつらと戦おう!」
どうにも一気に騒がしくなった夕食は、カーマが自分の机に食事を置いてきた事に気付いて去っていくまで続いた。
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