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 場所は第七訓練場、各々に従器を手にした生徒が、それぞれ一人で、あるいは誰か相手と組んで、自身の身体と従器の動きを確かめていた。


 ある者は剣、またある者は槍、中には武器にすら見えない独特の形をとらせている者もおり、それぞれの従器の形はその者の戦闘スタイルによって多様性に富んでいる。そして更に、それらの形は戦闘中にすら自在に変化していく。


 従器とは、正式名称を脳波従属特殊鋼製多機能可変型兵器といい、皮膚を通して脳波を読み取り、それに反応する特殊な金属を主材料に作られた、外からの力に依らずそれ自体が機動、変形を行う、現代における最新鋭の兵器だ。


 元は王石を効率的に活用するための研究から生まれた、いわゆる副産物的な代物だというが、今では王石を守る、あるいは奪うため、従器はある意味で王石そのものの研究よりも力の注がれるほど重要性を持つモノとなっている。


 そんな高性能で多機能な従器だが、その構造の複雑さゆえにそのスペックを完全に引き出すには才能と努力を必要とする。そんな才能をもった者を集める、あるいはその才能を磨くため、ここのような従者育成専門学校というものが存在するわけで。


「ねぇ、あんたは調整しないわけ?」


 そんな中、自由調整時間に従器を待機状態のままにしている俺などは、比較的珍しい部類に入っていた。


「お前に心配されるほど落ちぶれたつもりはないな、チャイ」


「そうじゃないわよ。相手してあげる、って言ってるの」


 俺に声を掛けてきたのは、斧の形の従器を手にした赤色の髪の少女、チャイ・ラッセルだった。身長は女子にしては高く、176cmの俺と並んでも一目で明らかな差はないが、それにしても斧なんて随分と無骨な形態を選んだものだ。


「お前に相手されるほど、落ちぶれたつもりはないな、チャイ」


「なんなの? そのフレーズ気に入ったの? キモいんだけど」


「お前に蔑まれるほど、落ちぶれたつもりは――」


「あーあー、わかった、わかったから!」


 機械的に繰り返していると、根負けしたようにチャイが音を上げた。


「それで、なんでそんなバカみたいに突っ立ってんの?」


「調整はもう終わってるからな。人前でバカみたいに従器振り回す必要がないだけだ」


 返す刀で言葉が厳しくなったが、人前で無闇に従器を扱うのが賢くないというのは俺の考えだ。初戦はヒースとだが、最終的に模擬戦では学年の全員を相手にする事になるわけで、出来る限り手の内は明かしたくない。授業を全て放棄するわけにもいかない以上、今更の感もあるが、それでも自由調整は特に癖が出やすい。


「へぇ。それで、ノヴァもあそこで座ってるんだ」


「そっちの方の理由は知らないけどな」


 見ると、たしかにノヴァや他に数人も従器を待機状態のままで放置している。一応は授業中ではあるが、教師陣もあえて口出しをするつもりは無いようだ。


「ちぇっ、あんたもダメだと、まともにやり合えそうなのがいないじゃない」


 チャイは女子では学年でノヴァに次ぐ暫定順位八位であり、男子を含めてもこのクラスでは俺とノヴァの二人しか成績で上はいない実力者だ。


「パトリックはどうだ?」


「あいつはやだ」


「そうか、それなら仕方ないな」


 一応、パトリックはチャイの一つ下の九位で、調整にはちょうど良さそうだが、本人が嫌だと言うなら無理強いはできない。出来る事なら、チャイが実力の近い相手と戦うところも見ておきたくはあったが。


「まぁ、精々ヒースとの対戦で手の内をさらけ出す事ね。その後で、私があんたから一位を奪うから」


「なんだ、俺が勝つ方に賭けたってのは本当なのか」 


「当然でしょ。私、あいつの事嫌いだし」


「好き嫌いの激しい事で」


 女子からの人気の高いヒースだが、見ての通りチャイはヒースの事を嫌っている。それが理由で男子から女神のような扱いをされていた時期もあったが、そもそもチャイは男全般への当たりが強いため、ヒースがダメなら俺にもチャンスが、とはならない。


「まぁ、それなら私もあんたに倣って今回は見学にするわ」


「そうか、じゃあな」


「えっ、ちょっと、どこ行くのよ」


「トイレに行く振りして抜ける」


 情報収集は隠匿と同じくらい大切だが、上位陣が手の内を明かさないならあまり意味はない。呆然としているチャイを置いて、俺は訓練場を後にする事にした。

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