真冬の太陽
厳しい冬の寒さに凍てついてしまったような、こんな公園に好んで通う変わり者は、彼くらいだ。
キョウヘイはひとり熱っぽく、白い息を空に舞い上がらせながら歌っている。電灯のオレンジの光を独り占めして、まるでそれをスポットライトのように浴びながら。
通りがかる自転車が、公園の前で止まったのが目に入ったようだ。彼の歌はぴたりと止まった。
もしかしたら彼は、暗闇をも見通す驚異的な視力の持ち主なのかもしれない。
いつも物陰からひっそりと視線を送っている私を、決まって見つけてしまうのだ。
そして今日もやはり、声をかけてきた。
「やっほーっ!笑ちゃん。」
私に向けて、大きく手を振る男のシルエット。
その表情は見えなくとも、いつものあの笑顔が鮮明に浮かぶ。
口の中を開けっぴろげにして、こっちまでつられてしまうような無防備なあの笑顔。
そしてそんな笑顔を目の前にすると、私はいつも何も言えなくなってしまうのだった。
「寒くてしにそー!なにかあったか~い飲み物が飲みたいよ~」
当たり前だ。暦の上では春とはいえ、三月の夜に公園で過ごすのは修行に近いものがある。
いつも誰に対しても、そんな風な軽い冗談を言っておどけている。
彼はみんなの頭上で明るく輝く太陽のような人。
どちらかと言えば日陰の住民である私にとって、いささかまぶしすぎる存在だった。その光は、しばしば私を困惑させるのだが、ほんのりとどこかで心地よく思う自分もいた。
しかしながら私はいつも、そんな光を自ら遮り、日陰に避難するかのように彼から逃げてしまうことが多かった。
今日もまた、取り敢えず「またね」と届かない台詞を囁いて、その場を去った。
私のほうこそ、驚異的な聴力の持ち主かもしれない。
彼の歌声を、どんな喧騒でだって聞き取ってしまうのだから。
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