現実的すぎる現実
仕事や収入から、なんだか全体的に何もかもが頼りない。
そんな人を父に持つ私の生活は、なにかと苦労が多かった。
もしかしたら、単に自分の性格がそうさせただけかもしれない。
そんな私の目下の目標は、“此処から抜け出すこと”。
行先は特にない。ただ、この苦しい現実から抜け出したい。それだけでいいのだ。最低限だが、私にとってこの上ない望み。
高2の終わり。これから否応なしに人生の選択期がやってくる。
怯えるようにして、でも、心のどこかで、春のうららに幸せを夢に見ている。
しかしなんだか幻を見ているような、そんな気しかしない。
緊張感と、期待感と、不安感と、。
そんな風にして、その複雑な心境を抱えて、この厳しい冬を過ごしていた。
私たちのこれからの時代、なにやら“人生100年時代”なんて言われているらしい。よく見る保険のCМで耳にしたフレーズ。
それが事実であるのなら、単純計算で私はこれから、今まで生きてきた時間の5倍もの年数を過ごすことになるわけだ。
まだその1/5も生きていないのに、もうすでに疲れてしまっている私にとって、それは苦痛で仕方なかった。
人生の春も、新学期と共にやってくる春でさえ来ないような気がしている若者には、その事実は悲報に他ならないのである。
友達と笑うでもなく、大した話さえせず、先生の言葉と教科書と、ノートとだけに向き合って、今日も6限目までの授業を終えた。
なんとなくこれが、これから受験期を迎える高校生の正しい行いなのだ、と自分に言い聞かせて、もうすっかり暗くなった帰り道を、自転車で息せき切って走った。
硬くなった表情筋をほぐすように、すっとんきょうな顔で口笛を吹いたり、思いつくままに歌を口ずさんだりして、毎日来る日も来る日も、この道を思いっきり駆け抜けた。
闇夜の中でしか、自分を解放することができない、なんともまあ不憫な女子高生だ。
自宅近くの公園の前の並木道に差し掛かったところで、歌うのをやめた。
そこにはアイツがいる。
自分の下手な歌に代わって耳に入ってきたのは、聞きなじみのある歌声と、無邪気にかき鳴らすギターの音が奏でる、流行りの恋の歌。
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