3.僕と安城さん
一年の頃からのクラスメイトに、
小柄で色白で華奢だけど、実はスポーツ万能。中学では陸上部の短距離選手だった。
長い黒髪をポニーテールに結わえて走るその姿は、文字通りポニーのように可愛らしい。実際、男子からは人気がある。玲と同じか、少し上くらいに。
人当たりがよくて、僕と玲ともそこそこ仲の良い女子だ。
「ねぇねぇ、レイちゃんとアカツキ君って付き合ってるの?」
――ある日の昼休み。
その安城さんが、中庭の片隅でお弁当を食べていた僕に、そんな問いを投げかけてきた。
あまりに突然のことだったので、僕は飲んでいたコーヒー牛乳を危うく鼻から吹き出すところだった。
「ねぇねぇ~、どうなのどうなの~?」
随分とグイグイくる安城さん。身長差を埋めるように、背伸びしながら顔を近づけてくるものだから、誰かに見られたら勘違いされるかもしれない――と心配になったけど、周囲には誰の姿もない。
いつも一緒にお弁当を食べている玲も、委員会活動とやらでいない。
そもそも中庭は日当たりが悪いので、好き好んでここでお弁当食べるのは僕と玲くらいのもの――つまり、安城さんは僕が一人のところを狙ってやって来たようだった。
「――付き合ってないよ」
「へぇ、そうなんだ~! いつも一緒にいるのにね、意外~」
頭に「まだ」を付けるのをぐっとこらえて答える。すると、安城さんはその小動物みたいな顔にいたずらっぽい笑みを浮かべて、わざとらしく驚いてみせた。
以前にも玲と僕が付き合ってるのか訊いてきた人はいたけど、それは冗談めかしてのものだった。わざわざ僕が一人の時に訊いてくるなんて、何か目的があるとしか思えない。
――もしや安城さんは僕のことを? 等と一瞬思ったけど、まあそれはあり得ない。自分で言うのも悲しいけど、僕はモテたためしなんかない。
「あ、ごめんね! 突然こんなこと訊いて。実はね~、陸上部にレイちゃんのことが気になってる男の子がいてね~」
「ああ……」
なるほど、そっちか。
これも時々あることだ。女子が僕の所に来て、「男友達がレイちゃんのこと好きなんだけど、紹介してあげてくれない?」と言ってくることが何度かあった。安城さんもそのクチらしい。
でも――。
「レイの奴、そういう話は全部断ってるんだ。一応伝えてみるけど……多分、駄目だと思うよ?」
「あちゃ~、やっぱり? 噂には聞いてたけど、レイちゃん撃墜王なんだね~」
「撃墜王」というおかしな言い回しに、自然と笑いがこぼれそうになるのをぐっと堪える。安城さんは真面目な話をしているんだ。
「その子ね、結構本気なの。でもレイちゃんとあんまり話したこと無いからまずは打ち解けたいって、遊園地のチケットも準備してたの。四人分」
「……四人分?」
急に話が見えなくなってきた。遊園地のチケットを四人分って、なんだろう?
「あっ、ごめんね! 話が飛んだ~! ……え~とね、いきなり二人きりは無理だから、レイちゃんと仲の良いアカツキ君と私もついていって、四人で遊ぶのはどうか? って言ってるのよ、その子」
「ああ、なるほど……」
そういう話なら分かる。いきなり二人きりは無理だから、まずはグループ交際でお友達から始めましょう、ということなんだろう。
「ね? ね? いきなり付き合ってください! とかじゃないし……どう、かな?」
そう言って、可愛らしく小首を傾げる安城さん。
……これはちょっとだけ卑怯だ。
「……分かった。そのことも含めて伝えておくよ。でも、駄目だったら……ごめんね?」
「ううん、全然! ありがとね! それじゃあ!」
そのまま笑顔で手を振りながら去っていく安城さん。
僕もだらしない笑顔を浮かべながら手を振ってそれを見送る。……やっぱり玲以外の女子と話すと、なんというか、照れる。
……しかし、これは安請け合いをしてしまったかもしれない。
どうせいつもみたいに、玲にすげなく断られると思うけど――。
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