第20話 新しい舞台へ3


「最初に聞いた時は自分の耳を疑ったけど……普通の女の子みたいでホッとしたよ」

「僕は最初から普通の娘だと言っていたはずだけどね」

 

 教会にコランダを送り届けた後、ルベウスとミュルグの二人は並んで大通りを歩いていた。

 歩き疲れたのか額に浮いた汗をハンカチで拭いながら、ミュルグはニヤリと笑って言った。

「ははは、ルベウスに限って“普通”なんてことはないだろ。まぁ、代役を引き受けてくれた恩人だし、野暮な詮索をする気はないから安心してよ」

「コランダはオミナに引き取られた孤児だ。僕はオミナの言いつけでコランダに魔法を教える。そう説明したのをもう忘れたのかい」

 ルベウスは正面を向いたまま、眉一つ動かさずに答える。それを聞いてもやはりミュルグは笑みを浮かべている。

 「ふっふっふ、ルベウスがそう言うならそれでいいけどさぁ~?学生時代も女の子と連れ立って歩くなんて見たことないのにねぇ~? あ~首席だったルベウスには、次席だった僕の気持ちはわからないだろうなぁ~?」

「ミュルグ……君は会う度にその話するよな」

 もう聞き飽きたとばかりにルベウスは隣を歩くミュルグを睨む。



 二人は魔法学園の卒業生であり、同級生だ。

 難なく首席で卒業したルベウスに対し、ミュルグは努力に努力を重ねての次席だった。

 人を寄せ付けない孤高の天才であるルベウスと、人当たりも良い上に秀才であるミュルグ。周囲からは相反する二人だと揶揄されることが多かったが、学園内では顔を合わせる場面も多く、実際に話してみると不思議と馬が合った。

 現に、学園を卒業してからもこうして時折食事をしたりしている。もっとも、二人が話すことといえば、仕事の愚痴ばかりだが。


「はぁ~あ、きっと教壇に立っても生徒からもモテモテなんだろうなぁ~」

 ミュルグが恨めしそうにルベウスを横目で見ると、ルベウスは意地悪そうに口角を上げた。

「……フン、そんなに不満があるんなら、特別講師は辞退させてもらおうか?」

「あっ、それだけは駄目だから」

 ミュルグが割り込むように素早く言葉を被せる。思わず汗を吹く手にも力が入ったらしく、ハンカチがしわくちゃになった。

 その必死な態度を見てルベウスはクツクツ笑い、ミュルグは力なく溜息をついた。



 その後、ミュルグと別れ一人で帰路につくルベウスは、足取りも軽く上機嫌であった。

 ルベウスがニヤニヤと不気味な笑みを浮かべて歩くので、近くを通り過ぎた人は皆ギョッとしていた。


 学園の講師になれたことが嬉しいのではない。自分の計画通りに物事が動いているのが心地良いのだ。

 しかし、浮かれてはいけない。計画はここからが本番だ。


 冷静さを取り戻すため、ルベウスは一度足を止める。そして、その場で深呼吸を一つして、緩んだ頬を引き締めてから再び歩き出した。


「――さぁ、どう動く……悪役令嬢?」



 第一幕 転生編 ~異世界と魂の人形うつわ~ 終

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