第9話 王都キュラシス3
それにしても、冒険者ギルドといい、お城に来てまでイケメンの話が出てくるとは。
この世界の住人たちは整った顔立ちの人が多い気はしてたけど、その中でも美丈夫だ何だと話題になるんだからよっぽどなんだろう。
肝心の私の容姿はと言うと、この世界基準であわよくば中の中ってところだろうか。あわよくば……良い響き。
灰色というか鼠色の髪が陰気臭い印象を増長させているに違いない、とカラーリングのせいにしておこう。そうしよう。
そもそも、この世界では赤だの青だの、紫ピンク水色、果てはグラデがかっていたりと、もう配色は何でもあり!
元々の色がそういう人もいれば、染色している人もいるみたい。見た目ではわからないけどね。
私は隣を歩くアルストとロメリアに視線を落とす。
彼らも不思議な容姿をしているなぁ。頬の模様は何なんだろう。人間じゃないのかな?……でも可愛いから良いか。
私がニヤニヤしていると二人は急に足を止めて「あっ」と声を出して、前方を指差した。
小さな指先を追って見るとそこには二人の男性が立っていた。
そのうちの一人には見覚えがある。街中には不釣り合いな白衣を着た男性……ルベウスだ。
背も高くて顔立ちも端正だから、部類としては彼もイケメンなんだろうけど、人を寄せ付けない強烈な負のオーラを放ちまくっているので、積極的に近付いていく人は少ないだろう。
「ルー様と……あれは、ミューちゃん?」
片方がルベウスなのはわかった。しかし、その向かいに立つふくよかな男性は誰だろう。時折ハンカチで汗を拭きながら、懸命にルベウスを説得しているように見える。
ロメリアはミューちゃんって言ってたけど……ちゃん付けで呼び合うような間柄なの?
会話中だからなのか、向こうはこちらに気付かない。それなりに離れた場所にいるので会話内容も聞こえない。
「ミューちゃんはルー様の同級生で、数少ない友人なんだよ。二人共、“ここ”の卒業生。でも、こんなところで立ち話なんて……変なの。ルー様が明るいうちに外に出るのも珍しいし」
アルストはしれっと言ってるけど、数少ないって……。たしかに、友達が多いような人には思えないけどさ。
そして、私たちがいる“ここ”というのは、振り返ると答えがあった。
重厚な佇まいの建物――「リュケイオ学園」と呼ばれる魔法学園。
敷地はぐるっと柵に囲われていて、そこから察すると結構な面積がある。
この世界での学校というものは、平民層は通学で貴族や富裕層は家庭教師が一般的なんだそうで。
数ある学校の中でも魔法に特化した授業を行うのがここ、王立リュケイオ魔法学園。建国から間もなく創立した、由緒正しい学園だそうだ。
ルサジーオ国では全ての国民は十五歳になった時に魔力調査が義務付けられていて、一定以上の魔力を持つ者や、特異な魔法を使う者は強制的に学園に通わされる。
あとは強制ではないものの、王族を含む貴族も慣例で魔法学園に通うことがあるらしい。
ちなみに、今は入学式を控えた学期末の長期休暇中とのことで、生徒がいないので辺りは閑静だ。
……で、そんな静かな学園の近くで立ち話をする、OBが二人。
アルストとロメリアもひとしきり首をかしげて悩んでいたけれど、興味が薄れてきたのかクイクイと私の裾を引っ張ってきた。
「ここでルー様を眺めていても仕方ないし、そろそろ宝飾店に行こう?」
「そうだね……」
彼らは同級生だというし、積もる話でもあるのかもしれない。
私たちは彼らに気付かれる前に学園から離れ、当初の目的である宝飾店へ向かった。
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「この通りもさっきの通りも、街のあちこちで飾り付けがされているけど、いつもこんな感じなの?」
私たちはオミナさんのおつかい――修理した杖を引き取るために広い通りを歩いていた。
周囲には道具屋や宿屋、カフェや本屋等々、多種多様な店が立ち並んでいる。
しかし、どういうわけか共通している点があった。どのお店も軒先や窓などに花をあしらった飾り付けがついているのだ。
花が描かれた旗が掲げられていたり、花の形をしたガーランドが風に吹かれて揺れていたりと、趣向を凝らしたものも多く見ていて飽きない。
「あぁ、それはねぇ。もうすぐ“花雨祭”っていうお祭りがあるからだよ。花や作物の芽吹きを喜んで、この先も無事に育ちますようにって天に雨を願うお祭りなんだ」
「お祭りの間はこういう風に街が花でいっぱいになるのよ。でも、一番の目玉は大通りの魔法駆動パレードでしょうね。他国からの観光客も多いんだって」
「へぇ~そうなんだ!」
そういえば、冒険者ギルドでも“花雨祭”と書かれた依頼書がいくつもあったっけ。たしかパレード中の警備とか観光客の誘導とか……そんな内容だった気がする。
魔法のパレード、どんなものか見てみたいなぁ。
帰ったらオミナさんに行ってもいいか聞いてみようかな。
今はどの学園も休暇中だからか、あちこちで子供たちが楽しそうに花の飾り付けをしている。
華やかな祭りを控えた街は、どことなく浮かれた雰囲気に包まれている。その光景は平和そのもので、とても悪魔などという不穏な脅威に蝕まれているようには見えない。
実態のよくわからない破魔の力なんて……本当にこの世界に必要とされているのかな?
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オミナさんが杖の修理を依頼しているという宝飾店は、賑やかな通りから一本横道に入ったところにあった。
あまり大きなお店ではないけど、店内には所狭しと商品が飾られている。魔法が一切使えない私が杖を持っても猫に小判みたいなもの。
とはいえ、煌びやかなアクセサリーや不思議な形をした杖は見ているだけでとても面白かった。
アルストとロメリアが店主と話している間、私は一人で店内をウロウロしていた。
高価そうな宝石もあるし、ここで挙動不審に思われたら通報されてしまうかも……?私は溢れ出る興奮を抑えながら、小振りな杖が並べられたショーケースを眺めていた。
ズラリと並べられた指揮棒のような細長い杖は短杖と呼ばれ、この世界での標準的な杖らしい。
杖の末端、持ち手側に核石という宝石や金属が埋め込まれていて、魔力を増幅させたり精度を上げる効果があるという説明書きがされている。
店内には両手で使用する長杖というものも飾られていて、オミナさんの祭事用の杖はこちらのタイプだそうだ。こちらは鈍器に似ていてカッコいい。
様々な形の杖の中でも、私のハートをガッチリと掴んだ杖があった。
「短杖逆さ型」という形の杖で、標準的な短杖が持ち手側に核石があるのに対し、逆さ型は杖の先端に核石がついている。
簡単に表現しちゃうと、魔法のステッキっぽい!つまり、とても可愛らしい!!……って、また興奮が顔に出ると大変なことになるので、私はひたすらじっとその杖を見つめていた。
「お客さん、逆さ型がお気に入りですか?」
私があまりにもその場から離れなかったからだろうか、誰かが声をかけてきた。
振り向くとそこにはエプロンを付けた人の好さそうな老人が立っていた。
「逆さ型は実用には向きませんがね、盛装用の杖として使われたり、記念品として飾ったりと愛好者は多いんですよ。核石の装飾加工には技術がいりますし、ステータスとしての役割もあり……」
老人はニコニコと微笑みながら、聞いてもいないのに流れるように逆さ型杖の良さをアピールしてきた。
悪意はないんだろうけど、私は店員さんに話しかけられながら買い物するの苦手なんだよなぁ……と内心若干冷めつつ「そうなんですかぁ」とふぬけた返事をする。
……って、よく見るとこの人は店員さんではなく、職人さんなのかも。エプロンのポケットには工具のようなものがいくつも入っている。
工房が店の奥にあるとは聞いていたけど、こっちにも顔を出すものなのかしら。
でもねぇ、杖の魅力は十二分に伝わったけれど、買うかどうかは別問題!というか、私はお金持ってないからね!?
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