第ⅩⅡ話 そして彼女は

第一章 Life Is Dramatic


第ⅩⅡ話 そして彼女は


 必要以上に広く、魔獣の子1匹すら見当たらない程、無人で誰もいない平原。

 その中で、この平穏とは全く逆の惨劇がここで繰り広げられていた。

 ポタリ、ポタリと体内から溢れ出た血液が、刃を伝って滴り落ちる。

 この情景を生み出した人物を、察しがつかない私ではない。


「何で……私から奪おうとするの……」


 ナイフを突き立てた犯人は、包まれる無言の中、ポツリとこう呟いた。

 私にも、当然言葉を失くし、ただ呆然と眺めているベルにも、その心境も真意も分からない。ただ、起きているこの状況を受け止めるので精一杯だった。


 その犯人────そんなの、1人しかいない。


 半獣人ハーフの少女────「ロゼリア・バーデルセン」。


 険しく、怒りを隠せていない彼女の顔には、何故か涙が浮かんでいた。


■■■


 勿論、この事態を想定していないことはなかった。幾ら相手が知り合いだろうが、私は警戒の手を緩めてはいない。常に気を張り詰めている私は知人ですら疑う対象なのである。無論、ベルも対象外ではない。

 彼女の異変に気がついたのは、やはりいつもと違う反応。いつもの可愛らしい雰囲気が妙に殺気立っていたのも私は見逃していない。会話もそうであるが、それ以上に気になったのは彼女の毛並み。獣人という種は気性が荒立っているときは妙に毛が乱れる。それが彼女にも表れていた。元々獣人の時代があった私に、その微妙な変化が気づかないわけがない。当たり前のように彼女の些細な差異ですら私は察知しているのだから、何かないわけがない。

 そして何よりも、私は彼女の腰下に携えている物に注目した。私を刺したナイフである。

 数回同行した彼女とのクエストにおいて、一切の斬撃武器の使用がなかった彼女が刃物……。違和感以外の何物でもない。不自然だ。仮に彼女がその技術を隠し持っていたとしても、何故か今日なのか。普段と違う彼女の様子も合わさって、それが何を示すか、大体の察しをつけていた。


 刃物を使う行い。それはいくつも思い浮かぶが、最悪の事態も起こりうる。だが、その事態に陥った場合、決定的な「動悸」が思い浮かばない。


 そして、その最悪の事態に陥ってしまった。


 シャキン────


 耳を澄ませていなければ分かり得ないであろう金属音が後方から聞こえた。ベルはそれに気がついていない。

 私も警戒していなければ気が付かなかっただろう。異変に気がついたのが幸いだったところか。

 これによって予想は確信へと変わった。辺りにはモンスターの気配すらない。だだっ広い平原において、戦闘用ナイフの使用理由なんて、手入れか仲間割れ他ないだろう。

 刃物の音がして、数秒の間の後、静かだが軽々しい足音がこちらに近づいてくるのが分かる。

 ベルとの会話のため、その隙を狙ったのだろう。しかし、警戒心の塊のような私には全てがお見通しである。



 グサッ────



 そして今に至る。


 彼女が刺したのは背中ではなく、私の手だ。

 いや、刺したではなく、食い込んだと述べる方が適正か。


 私は今、背中越しに彼女のナイフを右手で握り締めている状況である。


 握った手は真紅に染まり、未だにその流血は止まらない。

 痛くないと言ったら嘘になる。だが、こんな痛みなど、棘まみれのモンスターに串刺しにされるよりかは随分とマシだ。ましてや、背中に深い傷を負うよりはこちらの方が正しい対処だ。もっとも、彼女の腕を掴めば早い話だが……。

 寧ろ、ベルに刃が向かなかっただけ良い結果である。


 ロゼが慌ててナイフを引こうとするが……動かない。私が力を強める度に血液の流出量が増すが、今はそれどころではない。


「奇襲するには音を立て過ぎている。素人がこんなモノを人に向けるな」


 空いていた左手でロゼの手首をはたくと、ロゼの握っている両手の力が緩む。その隙にこちらにナイフの主導権を手繰り寄せ、そのまま遠くに蹴り飛ばす。

 武器を失くした少女は、スイッチを肉弾戦に切り替える。

 高いジャンプからの飛びつき。それを避けたと思ったら、拳と蹴りの猛攻。

 もう、やけくそ気味のその攻撃は怒りで満ちている。


「何故、奪うの……何故、責めるの……何故、何故、なぜ!?……」


 泣きながら。私の右手の血液よりも、少女は多くの粒をポロポロと零していた。

 そして、感情に任せて力を振るう。獣人族の人間を超えた筋力。半獣人ハーフとは言え、少女とは言え、その力は計り知れない。


 1度捕まれば、間違いなく彼女は私に容赦ないだろう。


 降りかかる攻撃の嵐。

 だが、攻撃自体は何度も見た私には掠りもしない。数回共にクエストに挑み頭に入れた彼女の攻撃パターン。


 小さなジャンプの後の回し蹴り。


 彼女の渾身の一撃だが、私は既に見切っている。


 それを避け、相手のがら空きの腹部が目の前に晒される。そして────


 ドスッ


 彼女に強打の膝蹴りを1発、お見舞した。

 少女だからと言って容赦はしない。痛いのは当たり前だろう。

 だが、自分を半ば殺しに来ている相手に容赦するなと言われても、それは無理な話だ。ましてや興奮している相手に話し合いなど無駄だ。通じる以前に聞こえない。手を緩めた途端とっちめられるのがオチだろう。


 肉付きはいい方。だが、所詮は少女。強い衝撃に弱いその身体はたった一撃でも音を上げる。

 だが、その痛みに声を荒らげることもままならずして、彼女の意識が先に限界を迎える。スっと身体から力が削がれ、そのまま私にもたれ掛かる。

 彼女の身体を地面に預けるが、そのまま少女は地面に伏したまま、動かなくなってしまった。


 それを確認した私は彼女の使っていたナイフを手に取り、てのひらで転がす。


「ったく。暗殺者アサシンには奇襲は通じないぞ……」


 手に取ったナイフを持参したハンカチで、ついた血を綺麗に拭った。


■■■


 気絶して彼女が起き上がるまで、時間はあまり必要としなかった。

 大したもんだ。結構強めに蹴ったつもりなんだが、あれから10分もかからずひょこっと起き上がり、辺りを見渡した。目に溜まっていた涙に気づくと、急いでそれを拭う。


「お目覚めか……」


 こちらはこちらで今、ベルの治療の真っ最中である。手だけの被害のため、手当てなら自分でもできるのだが……。ベルがやりますと融通が聞かなくて……仕方なくこの光景だ。


「何ラブラブしてるの……」

「ラブラブはしてねぇよ。ってか、こうする原因を作ったのは誰だよ」

「……」


 下を向き、耳が垂れ下がるロゼ。

 すると何かを思い出したかのように、彼女の気持ちが膨れ上がる。


「何で……奪うの……」


 この言葉に、私達は首をかしげるしかない。身に覚えも、そして心当たりもない。

「さっきから何の話だ。ちゃんと話してくれ」

「そうだよ、ロゼちゃん。私達、何の事かさっぱりだよ」

 少女は下を向いたまま無言。だが、暫くすると再び涙を浮かべこちらに抱きついてくる。

「!?」

「お願いします……奪わないで下さい……私から、また家族を奪うのを……お願いします」

 訴えかけてくるが、やはり分からない。

 涙が私の服に染み付き、にじむ。


「丁寧に話してくれ。私は君に何をしたんだ?」


 そう尋ねると、まるで当たり前のように少女はこう言った。



 ────何って……あなたが私の親を殺したんでしょ?



「───!?!?」

 少女から出た言葉に驚きを覚えざるを得なかった。

「ちょっと待て。どういうことだ!」

「私、全部知ってるんだから、あなたが私の親を殺して、その家に住んでるって……」

「だからどういうことだ!?」

 話が通じなかった。ただ、意見が食い違うだけで、会話が成立しない。まるで洗脳されたかのようにそう言い続けていた。

 そして、私の言葉にそれは一気に正体を表す。

「誰から聞いたんだ?」



「────!?!?」



 少女は答えなかった。答えられなかった。

 私の言葉で時が止まったかのようにピタリと止まる。

「誰って……」

 そして、言葉を零した後に少女は頭を抱え込んだ。


「誰、だっけ……」


 少女は覚えていなかった。

 何も。話を聞いた場所も、話をした人物も。ただ、私が親を殺したという噂だけを残し、彼女の記憶には何も残っていなかった。


 困惑する少女。


「誰だっけ……誰だっけ、誰だっけ、誰だっけ」


「落ち着いて、ロゼちゃん!」

 ベルの声にようやく落ち着くロゼ。深呼吸を挟み、青ざめる顔を見せる。


 そして、私はようやくそれに確信を覚えた。


 ────成程な


 私はポケットに入れていたとある紙を取り出した。

 謎の模様の描かれた細長い紙。

 ロゼとベルにはただの何か描かれた紙にしか見えないが私にはこれの指す意味が理解出来た。

「君の首筋にこれがついていた」

「こ、これは?」


 戸惑う少女2人に私は説明をし始めた。


「間違いない。これは『呪術』だ」


■■■


 呪術────別名「古式魔法」。主に対人用として使われる魔法で、今の魔法「現代魔法」と比べれば、コストも効率も悪いのが特徴。だが、呪術にしか扱えない現象も多く、今でも密やかに使われている。


「この札は間違いなく呪術それだ。呪術は主に紙を媒体にして方式を書き込み、そして具現化する。今で言う杖のようなものだ」

「ところで、この呪術の効果ってどんなのなんでしょうか?」


「恐らく、『洗脳』────記憶操作の類だろう」


 呪術は主に対人用として使われる。例えば、相手の能力を下げる『衰退』、相手の頭を狂わせる『幻覚』、相手の位置をしらせる『把握』など、更に限定的なことをいえば相手へのデバフ効果が多い。

 今回は『洗脳』。相手にある程度の動作を命じ、それを完了するまで人形のように操作させるものだ。


「素人が直ぐに使いこなせるもんじゃあないのは確かだ。やったやつは手馴れてるな……」

「えっ……。ってことは、誰かがアルトさんを狙ってると……」

「そういうことになるな」


 ちなみに魔法に洗脳魔法といったものは存在しない。故にこの証拠が出た時点で呪術の洗脳によるものだと直ぐに断定できた。

 気づいたのはロゼを蹴りで気絶させた時。こちらにもたれ掛かる際に、彼女の首筋に謎の質感を覚えたのだ。

 そして探ってみればビンゴ。これがあったというわけだ。


「髪で隠れていて、私も触れるまでは気づかなかった。後ろの首なら本人でも気づきにくいしな」

「犯人は誰なんでしょうか……」


 ベルの問いかけに、ある心当たりを覚える。

 心当たりというか、あくまで推測だが……。


「恐らく、相手は闇の組織ブローカーだろうな。この手の仕込みは、奴らしか有り得ん」

「どうしてそう分かるんですか?」

「……」


 少し答えづらい質問が飛んできた。

 実は裏の世界で活動していた頃がある、だなんてどの口で言えたものか……。

 34回目の転生の時だった。私は闇の組織ブローカーの取り引き現場をたまたま見てしまい、その場しのぎで咄嗟の「仲間になる」発言をし、裏世界へと足を踏み出した。まるで小学生名探偵みたいな現場目撃だが、そんな状況を見て直ぐに殺されなかったのが救いだった。

 闇堕ち。今まで誠実に生きてきたつもりだが、味を絞めてしまった裏世界。私は少なからず、今もそれに染められてしまっている。

 そして、その経験をしたからこそそれを知っている。それだと分かったのだ。

 まぁ、逆にそれを捕まえる側、「警察」にも職を置いたこともあったし……。だが、それを説明したら余計にややこしいだろうな。

 元騎士の元商人の元警察って……。

 騎士が警察の役割も兼ねているとは言え、なんだこの詰め込みすぎなステータスは。若さに反して人生経験豊富にも程がある。


 暫く考え、ようやく言い訳を思いつく。


「まぁ、そういうやつを見たことあるからな」


 意味深な言い訳になった。余計にややこしいか?

 まぁ、2人がいい方向に解釈していることを祈る。

 だが、流石にこれじゃあまずいと思った私はついで言い訳を付け足す。


「それにな、この呪術とやらは、法律で禁止されているんだ」

「そうなの?」

「『呪術』と言うのは、その発動に生物の血や肉片を使用する。これだけ言えば分かるだろう?」

「!?」


 例えば、相手に脳を狂わせる『幻覚』、これを発動させるにはまず人間の生き血を有する。

 それを他の素材と調合し、紙に一定の術式を書き込み、そしてそれを発動したい相手に貼り付ける。

 あとは発動させたいタイミングで呪文を唱えるのみ。そうすれば相手は幻覚に犯され、脳が狂う。


 仕組みは血液中に含まれている少量のマナ。そして素材との魔法的反応。一種の化学反応のようなもので、マナが活性化する。


『呪術』の問題は素材の血液、そしてその効果である。


 現代魔法が研究される中世の時代。当時呪術は最盛期で戦争でも使われていたらしい。しかし、呪術に溺れ、勝利を掴み取らんとした国では大量の器が用意され、多くの死体が注ぎ込まれたらしい。無論、そんな国が上に立つべき存在であるはずもなく、その国は滅びの道へと歩んだらしい。

 このような魔法のための虐殺を防ぐ、そして呪術には効果を口にすることが出来ないほどの酷いものもあるためどの世界でも禁止が当たり前となっている。


 ちなみにこの国の法律にもひっそりとそれは所載されている。


「ベルなら聞いた事くらいはあったろう? 考古学者なら多少は触れるべきはずなんだが……」

「一応、名前くらいは知ってました。ですが、法律で禁止されているとは……」

「あんまり深く求めないようにそれは伏せていたんだろう。現に一般教育でもそれは記すことができない」


 今、その認知が薄れているのは、政府が意図的にそれを伏せているのもある。だが、1番の理由はコストと効率が悪いことにあるだろう。

 呪術にはデバフ効果のものが多いとは言ったが、全てがデバフとは限らない。だが、それが為に現代魔法の方が好まれ、そして衰退し影が薄れた。政府としては好都合だし、安全性的にも良い結果だろう。

 ……だが。


「この世の裏世界では流通していた……か」


 残念なことに、存在が無いわけではなかった。法律で禁止されているのもその証拠だ。未だに使う奴がいるからそれを抑える。禁止されているとは言え、そういった裏の業界には好都合なものも多いため、使用する輩も一定数いるのだろう。


「相手の目的はなんなのでしょうか?」


「恐らく、金銭関係だろう。まぁそうだろうな。こっちは大金を持っているんだからな」


 あの時の金。ヒュードラを倒し、その結果手に入れたオリハルコンを売り払って手に入れた金。白金貨40枚。

 今は少し減って30枚ほどだが、それでも多過ぎるほどだ。

 手元に置いておくのも不安だが、家に置きっぱなしも心配なので常に持っているのが仇になったのだろう。両替して少しばかし金貨や銀貨に戻したものの、その量はあまりにも多い。


「どこかで会計してる際に見られでもしたんだろうな。その手の奴は何処にでもいて、常に民を監視している」


 大金を持っていて狙われるのは想定内だ。

 だが、身内を使われるとは……。少し警戒が甘すぎた。私の不注意で知人に迷惑をかけるのは御免である。

 呪術は痕跡が残りづらい。指紋さえつけなければほぼ証拠は残らないに等しい。更には魔法で彼女の記憶も消されているため、完全に尻尾が掴めない。だからこそ、裏世界では使われているのだろう。

 暫く泳がせておくか……。


 さて、事件は繋がった。解決はしていないが、ひとまずお開き。……という訳にはまだピースが足りない。


「ところで、ロゼ……」


「君の言っていた、『これ以上奪わないで』とは何なんだ?」


「……」

 無言のロゼ。下を向き、何も言えない。

 私が彼女の親を殺した、と言うのは恐らくロゼを誘惑するための餌だろう。無論、私達はそんなことはしていない。呪術の発動やらを見て、それは理解してくれただろう。自分は騙されたんだ、と。

 だが、これ以上奪わないで、とはどういうことなのだろうか? 両親を奪ったが、これ以上何を奪うというのか。

 それが私は気になった。

 しかし、少女は語らない。視線を落とし、沈黙を貫くのみである。


 それを見た私は、手に巻かれた包帯を解く。

「済まない、ベル。巻いてもらったばかりだが、少し解く」

「あっ、ちょっ、巻いてないとダメですよ!」


 スルスルっと解けた包帯に隠された傷。

 深々と刻まれたてのひらの傷は今でもジンジンと痛みを帯び、見るだけでも痛々しい。止血はしているが、生々しい傷跡はことの重大さを少女に訴えた。


 彼女の腕ではなく、直接刃を握ったのはこの為だ。傷を見て、自分のやったことを認識させるため。そして何かを聞き出すため。

 被害としては小さいが、しかし、1つ間違えれば大惨事にも繋がっていた。


 これに抗うことは許されない。


「君のやったことは、こういうことだ。いくら呪術のせいとはいえ、君がやったことに変わりはない。証拠がなけりゃ、君が犯人になる」

「……」

「君が反省しているというのなら、君の事情を話してはくれないだろうか?」


 ことの大事を再確認させ、少女は認める他ない。自分の罪を。

 そして、閉ざされていた少女の口は、ようやく動き出した。



「実は……私────」



■■■


 時刻は午後3時を過ぎ、太陽がやや西に傾く。

 ロゼの話を聞き終え、和解を果たした我々はついに本題のクエストへと向かう。

 待遇クエスト────レヴォーグ山脈のアズガルド洞窟に潜む巨大ドラゴンの討伐。

 今回のメーンであり。私達がゴンズに内緒で受けた高難易度クエストである。


 そのクエストの目的地、アズガルド洞窟に私達は辿り着いた。


 大きく、中の様子が分からないほど暗みを増した洞窟内。吸い込まれそうな深淵で、向こうもまたこっちを見ていそうだ。

 早速、持っていたランプに火をつけようと魔法を唱える。だが……。


「その心配は要らないわよ」


 ロゼの忠告を受け、点火を止める。

 その言葉にどんな真意があるかは知らないが、ロゼの言う通りにランプをつけないまま中に入っていく。


 ズシン、ズシン────


 足を1歩踏み出すや否や、中から謎の振動音が響き渡る。

 それはゆっくりと、刻一刻と近づいてき、徐々に影が濃くなる。

 形が屋外の光によって照らされ、双眸に映り込む。

 怖々しい目付き。見るからに鋭い牙。そして、この種にしては大き過ぎる巨漢────。


 姿を現したそれに圧倒されながらも、相手は声を出す。


『また人間か……、この龍帝の首を討たんとする愚か者が未だにいることが驚きだ……』


 龍語。咆哮に近いその唸り声は、ベルとロゼには理解できない。

 それに対して、私は龍語で返答する。


『今回はお前の・・・首には・・・興味はない・・・・・


 人間が龍語を使うのが余程意外だったのか、ドラゴンは驚きを覚え、再び龍語で話し始める。


『ほう、我等の言語を使うか────。其れに我が首には興味が無いとな? 面白い。では何が為に此処へ来た?』


 それに対しての答えも龍語で返す。


この娘・・・を見れば分かるだろう』


 私が目の前のドラゴンに、それを見せる。

 それを見たドラゴンの目は、大きく見開いた。



「ロゼ……ロゼなのか?……」



「!?」

 ドラゴンが人語を使った。珍しい。私がドラゴンだった時代の時も使っているのは私を含め、2体くらいだったと言うのに。しかもそのもう1体というのは、真似て発音しただけの偽物だ。私のように熟練したものでは無い。外国人の日本語のようなものである。

 だが、流暢りゅうちょうに喋るドラゴンその人語に、私は驚きを隠せない。


 そして、その言葉に何の疑いも持たず、呼ばれた本人は返事をする。


「ただいま、龍帝さん」


 少女はいつものように挨拶を交わし、目の前のドラゴンの元へと駆け寄って行った。

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