第VI話 王都「ギルティア」
序章 The new Life
第VI話 王都「ギルティア」
あのまま数十分、歩き続けた。
しかし、まだ王都らしき場所は見えてこない。
いい加減、喉が渇きを訴えている。
水分が太陽によって奪われ、汗すら干上がりつつある。
なんとか街について、水分補給したい限りである。
時刻はおおよそ10時前。腹も減りを覚えてきたくらいだ。
それも当然である。
朝から何も食べてないし、飲んでもない。それどころかかなりの重労働をした始末である。あれを労働にカウントするのは別として、それによるエネルギー消費はかなりのものだ。
さて、いつになったら王都は見えてくるのだろうか……。
────
広い平野。周りには木の一本すらなく、モンスター一体すら見当たらない。
平野にとある小高い丘。その丘の中腹からも、その影は何一つ見つからなかった。
その丘の頂上。と言っても、そこまで麓から高くはない。
強いて5、6メートル程だろう。
だが、その頂上から向かっていた北の方角。
私はようやく向かっていた場所に辿り着いた。
「ようやく……、ねぇ。主人公補正でこの街のど真ん中に転生とか起きてくれないかね」
見えたのは、高い外壁に囲まれた中世ヨーロッパを連想させる、王都「ギルティア」だった。
■■■
「立ち去りたまえ! 君のような人物を通すわけにはいかない」
ったく、王都に着いた途端これだ。
体感時計、午前10時24分頃、私は遂に王都に辿り着いた。
過去に例を見ない、転生してから街に着くまでかなりの早さである。
だが、運が良いとは言えない。
ドラゴンに遭ったり、チンピラに絡まれたり……。むしろ不幸とも言えるだろう。この状況にしてもそうである。
街を前に門前払い。
まぁ、仕方ないっちゃあ仕方ない。
大抵、国を行き来するときは「許可証」というのが必要となる。
勿論、転生直後の私にはそんなもの所持もしていない。
となると当然、門番の衛兵に追っ払われる始末となる。今はまさにそれである。
「許可証」というのは、不法侵入者を防ぐためだ。
国中の世間を知るためには、当たり前の対処である。
となれば、私も諦めるしかないな。
いやさかいやさか。
私も運が無いものだ……。
────と、引き返すと思ったか?
引き返してどこへ行く?
他の街?「許可証」がないんだから、そこでも門前払いだろう。
そもそも、その街を見つけるのにも、また何日かかるか分かったもんじゃない。面倒ったらありゃあしない。
腹が減ったモンスターは目の前の獲物を見逃すと思うか?否だ。
と、言ったものの、目の前には横に続く限りの「外壁」。高さは十数メートルはあるだろう。モンスターの侵入から防衛するためだ。
門には衛兵。強行突破もできないことはないが、街で追われる身となって終いである。
よじ登ろうか? できないこともないが、時間がかかる。
では、どうするのか────。
それなら、
■■■
飛行魔法────これの克服にはかなりの時間がかかった。
完全にマスターするのに約3年……、今でも久々に使うと身体がふらついてしまう。
確か、最後に使ったのは約13年前だ。ちょっと練習が必要だろう。
壁というのを超えるには3つの方法がある。
潜り超える、壊す、飛び越す。
忍者でよく、塀を飛び越すというシーンがあるが、あれは面倒がかからないからだ。
今のこの挑戦にも、他のどれよりも行動が少ない。
頭の中で呪文を唱える。
────
光が身体を纏い、少しづつ身体が軽くなる。
そして、重力が薄く感じる。
足が徐々に浮いていく────。
────!?
ドサッ
身体のバランスが崩れ、前に倒れ込む。
宙に浮いた状態で倒れることを転ぶと言えるのかどうかは知らないが、直立時で言うと私は転んだ。
飛行時、1番難しいのはバランスだ。
一つ体重をかけ間違えればそのまま地面にドスンだ。
────
飛行魔法に慣れるのに、20分程の時間を有した。
致し方ない。これについては、幾ら経験を積もうが、慣れることは不可能だ。
再び脳内で呪文を唱える。
マナの光は身体に飛行を与える。
地面から足が離れ、徐々に宙に浮いていく。
新しい身体で飛行魔法を使うと違和感があるが、流石の練習量に身体は慣れを覚えた。
宙に浮く感覚としては、水の中に近い。水圧はないが、まるで海の真ん中で遊泳しているようだ。
鳥と言うのは少し違うのかもしれないが、あたかも羽ばたいてるように快く、心地良い。
空を蹴る。
そして飛び立つ。
下を向くと、地表が遠く感じる。
だが、怖くはない。もう、この程度の高さは馴れっこである。
囚われない自由の身、そのように感じる。
開放感が身に染みた。
────
気がつけば、とうに外壁の真上にいた。
その間、僅か10秒にも満たない。あっという間ではないが、かなりのスピードが出たようだ。
まあ、マナの消費を減らすのには仕方ない行為だ。別にコントロールできないわけではないので、問題はない。
街に辿り着くのは容易だった。
邪魔するものはいないし、逆に邪魔なものを飛び越すので容易なのは尚更だ。
だが、私はとんだ計算ミスをしていたようだ。
普通、人が飛んでいるのを見ると驚く。
誰だって、どこの世界だってそうだ。
例え魔法が確認されている世界でも、別に
つまり、人が飛ぶのは珍しい。
では、私のこのシュチュエーションを他人が見かけたらどうだろう。
まあ、そういう事なので、この後の展開を先に述べておくと────
衛兵に見つかってしまったのだ。
■■■
「ハァハァ、ここまで来れば、もう追って来ないだろう、ハァ」
街の路地に降り立った私は着地点付近で警備していた3人の衛兵に囲まれる始末となった。
まあ、相手にするだけ面倒だ。
「逃げるが勝ち」である。
衛兵に喧嘩売っても仕方がないし、捕まるのも煩わしい。面倒事は御免である。
まあ、逃げる時点で面倒事ではあるが、こちらの方が対処として軽いし、楽だろう。
という事で、私は不法侵入の無法者になったのである。
さて、広場まで逃げてきた訳だが、それでは「転生してやることリスト」もステップ4に移ろう。
異世界転生のみならず、全ての事柄置いて「情報」というのはかなり重要な役割を担う。
それが無ければ、勝てる勝負も勝てなくなる。
「情報」はその物の存在を構成する命レベルで重みのあるものだ。
地形、歴史、習慣、政治、価値観、名称etc.……
まず、異世界転生して街に着いたなら、最重要ですべき事だ。
ステップ4は「情報収集」である。
そもそも、アニメや漫画の主人公がやはりおかしいのだ。
「情報収集」もなしに、生活を送るなど命取りにも程がある。
どうして、あんなに周りに溶け込めるのか……。私もあんな能力が欲しいものだ。
街の情報が集まるところと言えば城や行政機関だが、流石に一般市民はそんなところに簡易に訪れることはできない。
では、他に情報収集するのに便利なところと言えば……。
私は毎回、「図書館」を利用している。
■■■
大抵、大きめの街というのは施設の配置にテンプレがある。
図書館については城に近い広場の付近にある。
今までの経験から、図書館は簡単に発見できた。
と言っても、その付近を彷徨いていたら、本のイラストが描かれた看板を見つけただけである。
絵の看板は本当に転生者に優しく、ありがたい。
さて、中に入るのだが……、とは言っても私はそもそも、この世界で遣われている「文字」を知らない。
つまり、情報を収集したくとも、その情報が分からないのだ。
情報収集をするには、まずは文字を会得する必要がある。
まぁ、毎度毎度のお勉強です。
転生時のお決まりだわな。
言葉の発音は分かる。だが、文字は分からないので、誰かに助けを求めようと思う。手伝ってもらおうと思う。
毎回、私はそうしている。
さて、手伝いをお願いする相手だが、私は適当に決めている。
恒例的に、私は「図書館から最初に出てきた相手」にしている。
誰だっていい。人は見かけによらないのだ。
例え、ゴリゴリのスキンヘッドでも、私は気軽に尋ねる。
これは経験則だが、過去にドラゴンとなった時、ドラゴンの中でもイケメンな奴と友人関係になったが、なんか人間の味方になって裏切ったし……。過去に私が組んでいた冒険パーティの中に打たれ弱い筋肉質の男がいたし……、本当に人は見かけによらない。まあ、ドラゴンは人ではないが……。
スタスタスタ────
図書館から1人、中から出てきた。
勉強終わりなのか、手元には教科書らしき本を数冊とペンケースを持っていた。
年齢は10代中頃。女性だった。
私は何の躊躇もなく、声を掛ける。
「すみません。ちょっといいですか?」
彼女は可愛らしい高い声で反応した。
「はい。何でしょうか?」
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