第3話/遭遇、目撃、魔術師達
香澄と別れた公園で、10分くらいなんで怒っていたのかうんうん唸って考えていたが、分からないものはわからないので帰路についた。
続きは帰って、唐揚げでも食べながらにしよう。なんてことを考えつつ、誰も歩いてないような田舎道を歩く。
葉桜町は駅前を離れると人通りが少ない。夕方なんて、歩いてて5分に一人会えればいい方だ。
だから香澄にも直ぐ気付けたし……、目の前から迫り来るおよそ地球には存在しないであろうとたかを括っていた"非日常"というものにも気付けた。
☆
「……何だ、お前」
虎のような外見をした怪物。いや正確には虎ではなく、色々な動物の特徴が混ぜ合わせられたようなナニカだった。
異世界でよく見かけた魔物と呼ばれる怪物たち。
目の前のソレは異世界では見た事がないが、魔物としか思えないような怪物、そこにはいた。
もちろんここは日本の葉桜町であって、異世界ではない。魔物がいるなんておかしい。
──Guruuu……
静かな唸り声。どうやら向こうも、こちらに狙いを定めたようだった。だから
「何だって──」
殺さないように手加減して、なるべく思いっきり殴り飛ばした。
「──聞いてんだろ」
謎の虎(?)のような怪物はギャンだのキャンだの鳴き声をあげながら吹き飛ばされる。
それを見届けながら手を握り締め、緩めを繰り返す。
(久しぶりすぎて、感覚忘れてた……)
力を使うのは半年ぶりだった。なるべくセーブして、捕まえてどこかに届け出ようと思っていたが。
というかこの場合、どこに届け出ればいいんだろうか。
(保健所……じゃないよな、怪物だし。いやでも、新種の生物とかなのかもしれないし……)
そんな事を考えながら未だ倒れ伏す虎もどきに近付く。
「って、あ?」
倒れたまま動かないなと思ったら、どうやら既に事切れていたのか。光の粒子のようなものになって静かに消えていってしまった。
「えぇ、どうしよう……」
何も分からないまま証拠も消えてしまった。というか一体いつから日本の片田舎に、あんな危険そうな生命体が生息していたんだ。俺がいない5年間で、日本はいつの間にか危険な土地に変貌してしまったのか。
そんな訳ない、と思うんだけど。
「とりあえず今日は家に帰って……母さん達に注意しとかないと、か?」
香澄は大丈夫だっただろうか。あの虎もどきから特に血のような匂いはしなかったが、少し不安になる。
まぁ公園から香澄の家までは五分とないし、虎もどきが来たのは香澄の家の反対側からだ。大丈夫か。
(地球にもあんな魔物がいるんだな)
「……モンスター保護団体とかいたらどうしよ」
少し弱気になりながら、再び帰路についた俺であった。
☆
「アレは、なんだ」
夕刻。刀を携え、顔にシワを刻んだ壮年の男は、先刻の一幕と、それを為した青年の去っていった方角を見ながら呆然と傍らにいる少女に問いかける。
男の名前は沖村 総十郎。
世界の裏という裏を掌握し、そして世界の歪みより産まれる妖魔を狩る“魔術協会”。その創設に関わったとされる七家の現当主にして、その実力を買われ日本支部の支部長を任されている傑物だ。
「今の……見えたか、モニカ?」
そして傍らにいる少女はモニカ・E・立花。総十郎の弟子である。
「……いえ、タチバナには全く。そもそも師匠に見えないのなら現時点のタチバナじゃ逆立ちしたって見える訳ありません」
事実だ。モニカは先刻の少年と、A級妖魔“ヌエ”との戦闘を思い出しながら答える。
「だよな」
総十郎自身もそう返答がくると思っていたのであろう。即座にそう返した。
そもそもA級妖魔とは、その討伐難度の高さから現在の日本に相対できる魔術師が百人といない危険な妖魔だ。力を持たない一般人にとって、なんならC級以下の魔術師にとっても半分災害のようなものと言っていいかもしれない。
一体現れるだけで街二つ程度は犠牲を覚悟しなければならない。
もちろん最優先で対処してはいるが、それでも犠牲は出るし、やむなく特殊工作で隠蔽せざるを得ない状況にさせられているというのが現状だ。
今回は幸運にも総十郎の手が空いていたため、後進育成も兼ねて弟子と共に急遽駆けつけたのであった。
ヌエの魔力反応を本部で感知してから15分、葉桜町に到着した二人はさて急いでヌエを見つけなければと捜索の輪を拡げた所で、急激な魔力の上昇を感じ、急行したところで先刻の場面に遭遇したのであった。
「戦闘中……って言っていいのかわからんが、あの交錯の一瞬に魔力の揺れは感じなかった。直前に上がった急激な魔力反応はヌエのもんだ。つまり」
「つまり彼は、魔法を一切使わず体術、もしくは他の何かの力でA級妖魔をぶっ飛ばしたって事ですか。タチバナにはもう理解不能です」
「そうなるな。一体どうなってやがる」
あまりに非常識。いや、そういう事を出来そうな奴に何人か心当たりはあるが、総十郎の知る限り今現在日本にはいない。
「というかあいつ、すげぇ若かったよな?モニカ、もしかして学園にいる奴で心当たりとかないか?」
「さぁ……少なくとも、タチバナはあんな真似できる生徒は知りません。どうします?もし協会に登録してない魔術師なら、無免許か……もしくは教会の人間って事になりますよ?ヌエも片付いたみたいですし、正直面倒なことには関わりたくないです、タチバナ」
「いや俺も正直そうなんだが……そういう訳にもいかんだろ」
そう言って、刀を担ぎ直す総十郎。
「無免許だったらそれを俺が見逃すわけにもいかんしな。それにもし登録してないなら、それはそれでこちらに引き入れたい。教会に渡すと面倒だ。……確かこの街って、お前の友達の実家があるんだったよな?」
「香澄のことですか?それなら、多分そうだったと思いますよ」
「んじゃまぁちょっくら……お邪魔させてもらうかぁ」
そう言い残し、二人は三嶋家へ向かって歩き出すのであった。
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