Enjoy festa!!(2nd)

 でも同時に、なっちゃんの言葉に希望を持ちました。「会っても、なっちゃんだとわからなければいい」。あたしはマスターになっちゃんの詳しい容姿だとかは話していないはずです。あたしは思い出します。マスターに教えた「なっちゃん」を。


 名前は「水戸奈都子」。

 部活は「バレー部」。

 性格は「サバサバしている」。


 ――こんなものだと思います。

 あたしの友達だから、というのもあるけれど、学校の話をするときに部活動と名前を教えていたのは結構痛かったな、と思います。文化祭は部活動やクラス単位で出し物をすることが多いし、マスターならバレー部だという話を覚えていても不思議ではありません。たぶん、今日一日使ってでも捜索するはずです。


「わかった。一応、マスターのことも教えておくね」


 あたしがマスターの簡単な容姿、性格を伝えておくと、なっちゃんは不味そうに舌をべろりと出して答えます。


「うげ、了解。……あたしはマスターのことなんて微塵も知りたくないんだけどね」

「そこは、ごめん」


 なんというか、なっちゃんを巻き込んでしまった原因があたしにあるような気がして、謝る言葉が口をついていました。


「なんで春が謝るの」


 なっちゃんはあたしの頭をがしがしを撫でまわします。痛い。この容赦のなさがなっちゃんです。なっちゃんは笑って言います。


「あたしが巻き込んだのかもー、とかいう心配は不要よ。人付き合いで友達選んだりしないから、あたし」

「……なっちゃん……」


 超頼もしい! かっこいい!


「何かあったら連絡して。あたし店番してるからあんまりスマホ触れないけど、バイブにしてポケットに入れておくから」


 何かあれば連絡をする。中身と言うより、スマホのバイブレーションで警報を送る、というのが近いかもしれません。あたしは深く頷いて廊下へと駆けだして行くのでした。

 まずは、マスターを見つけなければなりません。本人がここに来ているかどうか。今どこにいるのか。敵を知らなければ対応も困ってしまいます。把握しておかなければ、なっちゃんに危険を知らせることもできません。


「あ」

「あ」


 教室の廊下は人でにぎわっていて、思うように進むことが出来ません。珍妙な帽子をかぶった宣伝のダンボールをかぶった体育会系男子とかが結構邪魔です。そんな中、一番最初に出会った知り合いは意外にもというかなんというか、渡良瀬晶でした。


「えっと……どうも」

「何だよ、そのよそよそしい挨拶は」


 先日、テストの一件で晶とはまた話すようになったものの、こうもいきなり出会ってしまうと挨拶に困ってしまいます。普通に「やあ」とか言えば良かったんだろうけど、なんかうまく言葉が出てこないんです。なぜか。だって小学校ぶりにマトモに会話するのに仲良さげに声をかけるのも白々しいし、距離感を図りかねる、という感じで。


「晶、えっと、この間はありがとう」

「この間……」

「テストの」

「ああ。別にいい」


 晶はあんまり感情を表に出さないし、表情と感情が一致しないことがあるのでよく見ないと変化がわかりにくいです。小学校高学年までの知識でいいのなら……頭をかいてそっぽを向く姿は「平静を装ってはいるけれど、まんざらでもない」ときです。


「晶は店番とか、ないの?」

「ない。俺、昨日で終わりだから」

「ふうん」


 言ってから気づきました。晶って何部だろう、って。


「晶、部活やってるの?」

「……まあ。弓道を」


 弓道部。高校の中でも人気が高い部活です。見た目がかっこいいとか、精神が鍛えられるとかで、理由は様々ありますが入部希望者が多いのです。晶の成績はまったくわからないけど、ウチの弓道部は県大会を突破するかしないかくらいの実力らしいです。ズバ抜けていいわけではないです。

 ……そっか。あたし、晶のこと本当に何も知らないんだな。あたしの中の晶は小学六年生で止まってたんだから。


「春は?」

「帰宅部。バイトあるし」

「マスターのとこか」


 晶は一人納得した様子で首肯しました。


「そうだ晶、マスター見なかった?」

「マスター?」


 晶は怪訝そうな顔になります。


「なんで文化祭にマスターが」

「あたしの友達に会いたいとか言ってて」


 晶は黙って首を横に振ります。まあそうか。まだ始まったばかりだし、晶が見ていなくても仕方がないです。


「そっか。じゃあ――」


 そこであたしの口が止まりました。晶はこれまた不思議そうにあたしを見ています。

 あたしは考えていました。マスターが晶に会ったら? 当然なっちゃんのことを聞くだろうし、晶も何かヒントを与えてしまうかもしれない。下手なことは言わない方がいい、かも。


「……晶。マスター見かけたら教えて」

「? ああ」


 晶は最後までよくわからないといった風で、でも頷いてくれました。とりあえず、晶はこれでいい。と思ってまた気づきました。


「……そうだ。何かあったら連絡したいんだけど」


 小学六年生以来の関係であるあたしと晶は、当然お互いの連絡先なんて知らず。高校二年生にして、はじめてアドレス帳に「渡良瀬晶」の名前が載りました。

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