複雑怪奇七不思議
7th heaven(1st)
「変態?」
真顔でそう言ってのけるのは、さすがなっちゃんだなあと思わず感心していました。元々思ったことをハッキリ言う人だけど、それにしてももっとオブラートに包んだ言い方があるんじゃない? とよく思うけれど、そらがなっちゃんの良いところでもあるからあたしはそのままのなっちゃんが好きです。
ああ、こんにちは。仁科春です。
楽しかった黄金連休もあっという間に終わりを告げ、普段の学校生活が戻ってきました。新しい学年の授業にも慣れ、まあ、眠気と戦う日々です。
「そこまでは言ってないよ。ただ、ちょっと変わってるって言うか」
「何でも回りくどく考えるオッサンでしょ? そんなの変態で十分よ」
昼休み。
向かい合わせにした机でお昼ご飯を食べるのは、あたしの友達――
なっちゃんは、サッパリしたショートヘアに、突き刺すようにしてつけている大きなピンクのヘアピンがトレードマークの女の子です。バレーボール部では強烈なスパイクを決めるアタッカーとして、二年生ながら活躍していると聞いています。あたしも新人戦とか高総体で応援に行ったことがありますが、確かにあの鬼気迫るアタックは凄かったです。何がって、スタンドにまで届く痛そうな音が鋭くて。あんなボール受けたくないってあたしなら逃げ出してしまいそう。
その力強い攻めはなっちゃんを体現しているかのようで……要するに言い方がちょっときつめの、ともすれば攻撃的な性格の女の子なのです。
「あーそう。じゃあもっかい聞くけど、こないだそのマスターとやらは何について考えたって?」
「えっと……奥さんにあげるプレゼントは何がいいか」
「最早哲学じゃないわ、相談よ」
ごもっとも。
なっちゃんは椅子に深く腰掛け、脚を組みました。パンツが見えようとお構いなしです。中にハーフパンツを穿いているのもあるだろうけど、そういう恥じらいがない子なんです、彼女は。
「大体、何? これをあげることでどんなメリットがあるのか、喜ばれなかった場合はどうするか、って……考えるところ間違ってる気がするんだけど」
なっちゃんの意見は正論のように思えました。確かにそうなんだけど。
「それを考えちゃうのがマスターだから」
としか言いようがありません。
なっちゃんは憮然とした表情で紙パックのジュースをくわえます。
「ま、春がいいならいいけどね」
「あたしはいいなんて一言も」
「じゃあバイト辞めるの?」
「それとこれとは話が別でしょ。辞めないよ」
なんか誤解されてる気がする。あたしはアルバイトのためにあそこに通ってるわけで、別に哲学するために行ってるわけじゃないのに。なっちゃんはそこのところ、理解してくれてるのかな?
「ああ。そんな人ならこれとか大好きじゃない? 『校内七不思議』」
なっちゃんの笑顔が下卑た……というか、妙に世間じみたものになりました。噂話が好きな人特有の顔です。対してあたしの表情は一瞬で曇ったと思います。眉が曲がった自覚がありました。
「え……そんな話があるの?」
「あれ、春知らない? 結構有名なオカルト話だよ」
ストローから残り少なくなったジュースを勢い良くすする音が鳴ります。なっちゃんは周りの目とか女の子らしくとか、そういった概念にとらわれない女の子なのです。
「理科室の人体模型が動くとか、校長室の肖像画の配置が入れ替わるとか」
「なにそれ」
「春、こわい?」
あたしの曇っただろう顔を見てか、なっちゃんが煽るように聞いてきます。
正直に言って、あたしはオカルトとかホラーが苦手なわけではありません。グロテスクなのは好きではないけど、怪談がダメというわけではないのです。
じゃあ何に怯えているかと言えば、無論マスターのことです。
考えることが大好きなマスターが怪談やら奇怪な現象に興味を持ったら? なっちゃんの言っていることもあながち間違いではないのではないか……そんな不安が、ちらちらと。
「じゃあ、怖がりの春にとっておきのを披露しちゃおうかな」
しまった。あたしがマスターへの不安に悶々としていたらなっちゃんが話を始めようとしているではありませんか! このままマスターへのお土産を持参するのはまずい。あたしまで巻き込まれるのは自明です。
「なっちゃん! 大丈夫、そういうのは間に合ってるから……」
「そんな風に言ってもムダよ。今日は春を思いっきり怖がらせるって決めたから」
そんな殺生な!
あたしの胸中を知るよしもなく、なっちゃんは嬉々とした表情で話し始めました。とても怪談をするとは思えない、あまりにもにこやかな笑顔で。
「『真夜中の忘れ物』……って知ってる?」
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