第74話 墓前の報告

 車を駐車場に止めて、供えるための花と線香をトランクから取り出す。どうやら私以外にも一組来ているようだ。高級そうな黒いセダンが止まっている。

 山寺家の墓の方を向くとスーツを着た老人が立っている。その姿には見覚えがあった。老人近づき横顔を見ると思った通りの人物であった。


「……加賀さん、ですか?」


 加賀警視正はこちらを向いて少し驚いたような顔をした。


「月城か。久しぶりだな」


「お久しぶりです。まさかここで会うとは思ってもいませんでした」


「俺もさ。まあ話はあとにしよう。先に山寺に手を合わせてこい。駐車場で待っている」


「わかりました。では、後ほど」


 加賀警視正は私の横を通り抜けて駐車場の方へと歩いて行った。

 私は山寺寛治の墓前に立つと、花を供えて、線香台に線香を焚いて供える。


「山寺さん、約束通り報告に来ました。私は彼を捕まえる事ができませんでした。彼の最期は彼の描いた絵と全く同じものでした。

 私は彼を完全には救えなかった。私には彼の考えも理解できた。私も彼と同じ方向に突き進んでしまったかもしれないからです。

 彼を確保して、自分の罪を生きて償ってほしかった。そういう後悔がずっとありました。

 だけれど、あの時の言葉は幻聴ではないと思っています。私はこれまでの警察官人生、後悔しないよう生きていきます。……ああそうです、私は弁護士になることを決めましたよ。これからも私は事件に関わっていきます。見ていてください」


 手を合わせて一礼すると、私は墓を後にして駐車場に向かった。


 駐車場では加賀さんがタバコを吸って私を待っていた。私が声をかけると、携帯灰皿にタバコをしまった。


「報告は済んだか?」


 はいと私が頷くと、加賀さんは遠くの空を眺めてそうかとだけ言って、新しいタバコに火をつけた。


「……月城、お前はよくやってくれたよ。本当なら警視庁に残ってほしかったのが本音だが、それはもう今更だな」


「そうですね。……黛君たちはどうしていますか?」


「お前がいなくなってからの捜査一課でしっかりと働いてくれている。お前がいなくなったのは大きな損失だが、あれらなら問題ないだろう」


「そうですか。それなら良いです。……加賀さんはどうして墓参りに?」


 ふくんだ煙草の煙を空に吐き出した。


「……久しぶりに休みが取れたからな。人に言えない愚痴を言えるのはあいつの墓前だけだ」


「……私は世界一周旅行に出ます」


「それはいい。赤宮事件が終結したとはいえ、カメラの前に出たことも多いお前だ。暫くは批判が消えないだろう。世界一周旅行くらいが丁度良い」


 加賀さんはタバコを携帯灰皿に捨て、白い煙を吐くとじゃあなと言って黒いセダンに乗り込んだ。窓を開けて、「じゃあな」とだけ言うとエンジンを始動して去っていった。


「……さて、帰りますか」


 これで日本でやるべきことは終わった。私はS7に乗り込んで東京を目指した。

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