エピローグ
第73話 1か月後
赤宮事件終結から1か月。
警察は赤宮康介が元刑事、山寺寛治の孫である山寺宏海であったことを記者会見を開いて公表した。その日から連日ワイドショーで取り上げられ、ネットでは元警察官の孫だとわかっていてすぐに逮捕しなかったのではないかという憶測が出てきている。また、赤宮を擁護する声も見られる。そのような者が赤宮康介の模倣犯として現れるときがやってくるかもしれない。
警察は今後どうしていくのだろうか?信用回復には時間がかかるだろう。いや、考えても仕方がない。私はもう警察官ではないのだ。
「月城才児ともあろう人がこんなところで何してるんです?」
背後から声をかけられて振り返る。半開きの目をしたダルそうな歩き方で近づいてくる男が目に入った。
「君こそ、昼間からなんでこんなところにいるんです?暇なんですか?」
「これでも仕事中なんだよ。……しかし、河川敷で座って新聞読んでるっておっさんにしか見えねぇ」
「年齢考えれば十分私はおっさんですよ」
「いや、そういうことじゃねえんだが……。まあいい、あんたこれからどうすんだ?」
「そうですね……。仕事で忙しくしていてなかなか旅行に行けませんでしたから、世界一周クルーズにでも行きますかね」
「仕事は決めてないのか?」
「決めていますよ。弁護士になるつもりです」
「はははははっ!そりゃあんた、警察官なんかよりよっぽっどあってるぜ」
「そうなのかもしれません。事件と関わらない仕事を選ぼうと思ったのですが、どれも違うように思いましてね。法学部を卒業したこともあってこういう選択をしたわけです」
「ある意味事件にかかわる仕事だからな。法科大学院にでも行くのか?」
「そうします。もう10年以上たいした勉強はしていませんし、確実に行きたいのでね」
「そうかい。……さて、俺は仕事に戻るぜ。はぁ、犬探しなんて面倒くせぇがな」
「おや?君がそんな依頼を請け負うんですか?どういう風の吹き回しです?」
六路木心護という探偵は依頼内容によっては拒否することが多い。犬探しなんて受けることはまずない
「楠木ってガキ臭さの抜けない助手が受けやがったんだよ。受けちまったら見つけるしかないからな。勝手に受けるくせに全然見つけてこねぇんだ。うざったいったらないぜ」
頭をガシガシとかきながら声を荒げる。ダルそうに歩いてきた理由がこれでよくわかった。
「そうは言いつつ、そう悪い気もしていないんじゃないですか?若い刺激を受けるというのもいいものでしょう?」
「面倒だっつったろ?ああもういい。とっとと終わらせてやる。じゃあな。せいぜい自由な時間を楽しみな」
六路木探偵は右手を挙げて力なく小さく振りながら南に歩いて行くのを見送ると、私は広げた新聞を折って脇に挟むと、立ち上がって近くの駐車場へと歩き出した。
車に乗り込むと私は山寺寛治の墓に向けて走らせた。
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