第72話 見舞い
搬送された後、病院での検査によって入院が必要だと判断された。火事によるやけどは軽症で問題なかったのだが、慢性的な疲労でいつ倒れてもおかしくない状態だったという。ろくに睡眠をとらずに仕事を続けていたツケが来たようだ。
テレビのニュースではホテル跡地火災の上空映像とともに評論家が意見を言っている。警察に対する苦言はいつも通りだが、赤宮康介という日本史上最悪の連続殺人鬼が死んだことに安堵していると語っている。
個室の扉を開く音が聞こえ私はテレビを消した。
「おはようございます月城警視」
コートを右手に抱えた黛君だった。彼の右頬にはガーゼが貼られている。どうやらあの日私を無理やり引っ張り出したときにやけどを負ったらしい。
「黛君、私はもう警察官ではないですよ」
「そうですね。以後気を付けます」
丸い簡素な椅子に座り、コートを膝の上に広げると中から捜査資料が出てきた。私はそれを受け取り中身を確認する。遺体は瓦礫の中から発見され、下半身は焼け焦げており上半身は瓦礫に潰されて肉塊となっていた。頭部は右側面が焼けただれていたが損傷は軽微といってよい状態だった。
爆破には時限式のプラスチック爆弾が使用されており、爆破されたところは建物が倒壊しないように計算されていた。
火災を引き起こしたのは灯油をまいた部屋に時限式の点火プラグのような装置をセットしておき、そこにガスを充満させたダクトの先端をつけて、そのダクトを二階の舞台周囲の床にセットしておいたようだ。
炎が舞台上の宏海君に当たらないよう何度も実験を繰り返した結果だろう。
資料を読み終え黛君に返すと、彼はまたコートにくるむ。
間をおいて、少し不愉快そうな顔をした
「赤宮康介のDNA鑑定を行ったところ、山寺寛治元警部の孫である山寺宏海ということがわかりましたよ。まあ月城さんは知っていたんでしょうけどね。なんで教えてくれなかったんです?重要な情報じゃないですか?」
「……そうですね。それは申し訳なく思っています。ただ、今回のことは私が一人で向き合わなければならない問題もあった。警察としてではなく私の正義を優先しました。分かってくれとは言いませんよ」
「まあいいですよ。終わったこと気にしても仕方ないのはわかってます。ちょっと文句言いたくなっただけですから。では、僕は仕事に戻りますから。また来ますよ」
「ええ。ありがとう黛君」
黛君を見送り、私は静かな病室で3年以上に及ぶ赤宮事件は終わったのだと実感した。
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