12月31日

第68話 最後の日

 部屋の隅に立てかけた彼の絵を見つめて私は物思いにふけっていた。とうとうこの日がやってきてしまった。

 私が警察官として事件にかかわることができるのは今日まで。明日になって年が明ければ私はただの一般人だ。

 赤宮康介は今頃指定したホテルの跡地で私を待ち構える準備をしていることだろう。それがどのような仕掛けになっているかはおおよその想像がつく。[血の芸術家]として最後の作品を作りあげるつもりだろう。私はそれを止めて彼の身柄を確保する。

 懐から拳銃を取り出した。グリップのマガジンキャッチボタンを操作するとマガジンが滑り落ちてくる。左手で受け止めて、装填されている弾数を確認してマガジンを戻す。

 スライドを引いてセーフティをかける。これであとはセーフティを解除すれば即座に発砲が可能になる。


「さて、行きますか」


 私はトレンチコートを羽織ると、玄関の扉を開けた。



 その日のうちにレンタルしておいたコンパクトカーを走らせ赤宮康介の待つあのホテル後に向かう。

 愛車で移動すれば警察関係者や報道関係者に知られかねない。大きな騒ぎになれば赤宮康介はどんな行動に出るかわからない。無駄なリスクは最小限に抑えておきたい。

 22時になった頃に私は苦いく暗い思い出ホテル跡地に到着した。敷地内に車を止めると拳銃を手に室内へと入っていく。

 室内は黒く焦げていて、埃臭さと焦げ臭さが混ざり合った不快な香りが漂っている。赤宮が用意したのか小さなランタンが等間隔に置かれており、右の非常階段の方に続いている。トラップを警戒しながらゆっくりと進む。

 このホテルの中はよく覚えている。階段を上がって真っすぐ進み、左手に大きな扉がある。扉の先には大広間が広がっている。赤宮康介はそこにいるはずだ。

 階段を上がり切ると大広間に続く扉が開け放たれている。

 意を決して大広間に入ると奥の檀上に赤宮が椅子に座って私を待っていた。


「22時3分。爺さんの死んだ時間ぴったりですね。月城警視」


 私を見て立ち上がり、そばに置いてあるランタンに火をつけるとやせ細って頬のこけた顔が見えた。末期がんで余命1年と山中から聞いていた。すでにここまで弱っているとは思ってもいなかった。

 声を少しかすれているが、紛れもなく赤宮康介であり山寺宏海であった。

 

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